26.報奨金
魔術ギルドでの初仕事が終わり、エミリアは報奨金を受け取ることになった。
ギルドの所属者は雇用関係というわけではない。
そのため、単純な給料ではないのだ。
100人を超える人数が忙しそうに働く、魔術ギルドの事務所。
そこでエミリアはフローラから小さな封筒を受け取った。
薄い青色の封筒――銀の印字で『イセルナーレ魔術ギルド』と書いてある。
「明細書が入っているわ。確認して頂戴」
「はい……!」
フォードは今、エミリアの隣で絵本に熱中していた。
エミリアは胸を高鳴らせながら、封筒を開ける。
そこには四角ばった、いかにも公的文書の字で明細が書かれていた。
『イセルナーレ魔術ギルド 所属
エミリア・セレド様
大陸歴1898年7月11日分 作業費
ルーン消去 廃棄レール20本 計5万ナーレ
7月12日付けにて、既定の銀行口座へお振込みいたします』
ふむふむ……。
……5万ナーレ。
日本円の価値にして10万円だ。
!?
実作業2時間で――あれが10万円のお賃金に!?
エミリアの目が思わず点になってしまう。
「あら、期待よりも少なかったかしら」
「いえいえいえ! ありがたく受け取らせて頂きますー!」
何度もエミリアは頭を下げてしまった。
(思ったよりもとんでもないお金が飛び出してきた……!)
世界でもトップクラスの大国であるイセルナーレ。
その中でも歴史ある魔術ギルドだから、ある程度は期待できると思っていたけれど……想像以上だ。
「まぁ、廃棄レールの件は優先課題よ。さすがにこれほど高額の作業は中々ないわ」
「そ、そうですよね……」
「でも同じ作業なら、イセルナーレでも最高額の報奨金を用意できるわ。それがギルドの役目だから。工房の職人の年収だって、驚くべきものよ」
フローラが自信たっぷりに言い放つ。
すすっと周囲を確認したエミリアがフローラにそっと小さな声で問いかける。
「ちなみになんですが、あの工房の皆様の平均年収はいかほどでしょう?」
「ふふっ……」
フローラが意味深に微笑み、エミリアに顔を寄せる。
「1500万ナーレよ」
「ふぐっ……!! は、はい……ありがとうございました」
1500万ナーレ、ということは3000万円ほどだ。
頭の中でウォリスで知った貴族収入のアレコレを思い出す。
ウォリスの中級貴族だと、これほどの現金は年間で手元に残らないのでは……。
貴族は収入も多いが支出も多い。思ったほどの最終利益はない。
それでも財産がある以上、堅実に領地経営すれば生活に困ることはないわけだが。
(……にしてもこれで5万ナーレ)
頬が緩むのを止めなければ。
フォードを育てながらだけど、年収はそこそこ期待できる。
ちゃんと稼げれば、あの元夫のくだらないガラクタを売ったお金にも感謝しなくてすむだろう。
それが結構嬉しい。
「支払いは基本的に翌営業日の振り込みよ」
「それも凄く助かります」
「ギルドの仕事の利点はそこね。検収が終われば翌日に支払うわ」
ううむ、この報奨金の高さと支払いシステムは魅力的だ。
最難関と言われるのも頷ける。
というより、下手な貴族よりずっと稼げるだろう。
それがさらに人材を呼び込むことに繋がっている。
「当面はレールのルーン消去の仕事があって……それ以外にもギルド所属員が製作したルーン魔術品の買い取りもしているから」
「作ったものを持ってくれば買い取ってもらえるんですよね?」
「適切な市場価値を算出して、ね。だからあの工房以外にも自宅でずっと作業している人もいるわ」
芸術家肌の職人はそうした道を選ぶ人もいる。
だが、これはハイリスクハイリターンだ。
どういうものに価値があるのか、リサーチなしにはできない。
イセルナーレで通用するセンスもない……ウォリス丸出しの品物になるだろう。
やはり当面はルーンを消す仕事に従事して稼ぐのが賢明だ。
そこまで弾き出してエミリアがフローラへ伝える。
「しばらくはルーンを消す仕事に専念できれば、と」
「わかったわ、ありがとう。工房に来られる日を連絡貰えれば、色々と用意しておくから」
エミリアの泊まるホテルからこの魔術ギルドまでは徒歩10分ほど。
あとで紙に書いて、出勤予定を出せばいい。
「本当になにからなにまで、ありがとうございます」
「とんでもないことよ。あなたこそ、困ったことがあったら相談してね?」
「……はい!」
エミリアは報奨金の明細を手に、フォードと帰路についた。
時刻は午後を少し回った頃。ちょうどお昼時だ。
(やったぁぁっ……!)
初仕事が終わり、お金も入るめどがついて……エミリアは浮かれていた。
もちろんフォードにもそれが伝わってくる。
「お母さん、とっても嬉しそうだね」
「うん、そうね。お仕事がうまくいったから」
イセルナーレの初出勤日としては最高だ。
にまにまと笑みがこぼれてしまう。
「ねぇ、お昼は何を食べましょうか?」
「んー? お母さんは何を食べたい?」
熱い日差しを浴びながら、フォードがエミリアの顔を見上げる。
探っているようだけど、フォードもリラックスしていた。
(なんとなくだけど……私と同じかな?)
とりあえずエミリアは今、一番食べたいモノを口に出してみる。
「……カニ!」
「うんっ! カニいいよねっ!」
フォードがエミリアと繋いでいる右腕を振り上げる。
そんな息子を見て、エミリアもテンションが上がってしまう。
「思いきり、カニを食べちゃおう!」
(V) (O ww O) (V)
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