259.夜会料理
ルルを抱えているので、皿を持つのはロダンに任せて……。
とはいえ、ドリンクはエミリアとルルが受け取り、空いているテーブルに寄った。
「よいしょー」
「きゅうー」
フォードとルルが着席し、料理の皿に目を輝かせる。
エミリアも挨拶が続いたので、少し気合を入れ直すためにも物をお腹に入れたい気分だ。
早速、サラダから食べ始める。
ここでもマナーとしての優雅さを忘れないように……。
ぷりっとした小エビの身とアンチョビをすくいながら、葉野菜を絡ませる。
「んっ……美味しいわ」
活きのいいエビの弾力ある食感とアンチョビの塩気。
味付け自体はあっさりめのはずだけれど、素材で引っ張っている。
「はむっ、んー……もぐっ。エビがすごーい」
フォードもやはりエビに強い印象を持ったようだ。
「ん? なんだろう、セロリが入ってる?」
首を傾げるフォードにエミリアが答える。
「それはパクチーという葉ね」
エミリアはサラダの中から探し出した、小さなパクチーの葉をフォークに載せる。
「ふぅーん、ちょっと苦いね」
フォードは言いながら、次の一口に向けてフォークを伸ばす。
「僕、これ好きかも」
「きゅい」
ルルも実はフォードの膝に乗って、フォークをサラダの皿に伸ばしていた。
「きゅー」
たんまりとフォークにサラダを載せて、もしゃもしゃもしゃ……。
あまり優雅さを感じない食べ方であるが、ルルには夜会のルールのうち、かなりの部分が適用されない。
なのでエミリアも気にしないことにする。
「……きゅ!」
「アンチョビもいい? うん、全部が美味しいよね」
こうした立食パーティーでサラダというのは難しい位置にある。
サラダだけを食べる人は少数派だが、ないと困る。
そしてみずみずしさを維持するのは……いうほど簡単ではない。
ハズレのサラダに何度も遭遇してきたエミリアだが、今回のサラダは最上位に位置する出来栄えだ。
次にサーモンのレモンソテーへ。
ほくほくの細長い身。湯気の立ち昇る身をフォークで取り、口元に運ぶ。
胡椒と柑橘の、食欲をそそる香りだ。
はもっと食べると、とろりとしたサーモンの脂がまず感じられた。
ちょっとだけ遅れて、レモンの爽やかさと胡椒の辛味がやってくる。
もっさりとしていない、しっとりとしたサーモンの味。
上品にまとめられた清涼感のあるサーモン。
濃いながらも飽きない逸品だ。
「中々のものだな」
「本当にそうね。お料理に力を入れられているみたい」
「観光業に力を入れる貴族も増えてきている。ふむ……今回はお披露目の機会でもあるのだろう」
ブルースはやはり、色々と考える王族なようだ。人が集まる機会を無駄にしない。
話しているうちに楽団の音が変わり、静かな曲になった。
これは……そろそろ開会の挨拶が始まるのだろう。
照明も暗くなり、スポットライトが奥へ向かう。
瞬間、会場のざわめきがすぅっと引いていった。
「皆々様、本日はお越し頂きありがとうございます――」
ブルースの姿は全然見えないのだが、拡声のルーンによって声だけは聞こえてくる。
はっきりと、落ち着きながらも人を惹きつける声であった。
エミリアもロダンもフォードも手を止め、ブルースの話に耳を傾ける……もちろん他の招待客も。
「……きゅ」
しかしルルの羽は止まらない。
サーモンを一切れ、二切れ、三切れ……。
ブルースの挨拶中、ずっとルルはまったく音を立てずにサーモンを食べまくっていた。
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