258.料理のテーブルへ
降り続く雪のように途切れなく挨拶の人が続く。
そこでエミリアはふと気が付いた。
(懸念していたより私への視線がないわね……)
自分が美しいとか、そんなわけではなく――ウォリス人の元公爵令嬢にして子連れ。
これがウォリスなら、多分かなり奇異の目を向けられると思うのだが。
正直、もっと侮蔑的なこともあるかと予想していただけに……。そんなことは全然ない。
拍子抜けなほどだ。
人が途切れた時に、エミリアはそのことをロダンに聞いてみる。
「……それを言うなら、俺が来ることも相当珍しい」
「あー……」
つまりロダンもレア枠ということか。
それを自覚していながらロダンは夜会を嫌がっていたので、アレではあるが。
まぁ、彼の複雑な出自を考えれば、貴族の付き合いの最たる夜会に出ないのは理解できる。
「それに君へ喧嘩を売るような人間はいないだろう」
「それって、どーいう意味?」
「…………」
とぼけてみるエミリアにロダンが整った眉を寄せる。
……すごく何か言いたげだった。
いや、もちろんガネットのことを指しているのだとわかる。
エミリアは大学講師になるや、いきなり決闘で新入生をボコしたのだ。
観客もたくさんいたし、あれを知る人間からしたらエミリアは……挑発するには危険すぎる相手ということになるだろう。
とはいえ、エミリアにも言い分がある。
(あれはガネットがまず挑発してきたわけで、それをガツンとやるのが最善だと……)
しかし、世間はエミリアをヤベー奴認定しているのかもしれない。
……ブルースからも釘を刺されたし。
「きゅ?」
「な、何でもないわ」
ルルの瞳は人だかりへ、料理の置かれているテーブルへ向いていた。
「フォード、大丈夫?」
「うん、へーきだよ」
答えはそうなのだが、フォードは慣れないだろう。
まだ元気なようではあるけれど……。
(そろそろかしらね)
フォードが疲れた様子を家族以外に見せるのは、本当に疲れた時だけだ。
なので、その前にエミリアはロダンに声をかける。
「少し休みましょう」
「うむ、そうだな……。悪いが、精霊を連れているので少し休ませてもらう」
これは作戦である。
挨拶に来た人たちも、精霊のことを言われては中断するしかない。
「きゅー」
実際のところ、疲れているのはフォードでルルではないのだが。
しかしルルも察したもので調子を合わせてくれる――もとい、休憩にかこつけてご飯タイムを取るつもりであった。
というわけで近くのテーブルへ近寄って、料理を求める列に並ぶ。
もちろん列の間も軽い挨拶はあるが、動く列だ。
本当に軽い挨拶のあと、料理の並ぶテーブルに辿り着く。
エミリアはロダンから腕をほどき、両腕で優しくルルを抱える。
赤子を抱きかかえるように。やや顔を傾けてルルから視線を外さないよう。
ここまでが礼儀作法に含まれる。淑女の持ち方、ルル編であった。
「何が食べたい?」
「きゅー……」
こちらのテーブルは野菜や魚料理中心だ。
ルルの瞳がぱぱぱっと動いて……。
「きゅっ!」
「小エビとアンチョビのサラダね」
「ふむ、わかった」
このレベルの会だと料理人に指示すれば皿に盛り付けてくれる。
ロダン経由でまず一皿。
ぷりぷりの小エビの身に、とろっとしたアンチョビ……。
野菜はみずみずしく、ほんのわずかにパクチーの香りがする。
あとは薄くスライスされたきゅうりも載っていた。
小エビとアンチョビはイセルナーレ産で、野菜は他国産なのだろう。
東方風サラダというやつだ。
「フォードは?」
「酸っぱいのが食べたいかも」
うーん、我が子ながら渋いチョイスである。
「サーモンのレモンソテーがある。それも頂こう」
「あっ、それ食べたい」
ではそれもひとつ。
サラダとは違い、目の前の鉄板で調理されたレモンソテーを皿に盛り付けてもらう。
出来立ての熱々だ。
赤身を残しながらも、薄く細長いサーモンの身がソテーされている。
そして気が付いたのだが、付け合わせに真っ赤なソースの小鉢が載っていた。
細かな粒と粘度の高いソース……土台はチリペッパーっぽい。
どうやら今回の会の料理は国際色を追求しているようだった。
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