256.大広間へ
「行こう」
「ええ」
準備も整い、服装チェックも終わらせた。
楽団の演奏とともに廊下が騒がしくなる。
周囲の控え室から人が出てきて、会場へと流れ込んでいくからだろう。
「ふぅ……」
「きゅっ!」
ちなみにルルの背丈だとフォードの手と繋ぐことができない。
なので、ルルはフォードのズボンの裾を軽く握っていた。可愛い。
エミリアが左腕を差し出し、フォードと手を繋ぐ。
そして、もう片方の右腕は――ロダンが取った。
「……緊張してる?」
エミリアがそっと聞くと、ロダンは本当か嘘かわからない調子で言った。
「いいや。君と踊れるのが楽しみだ」
「……ふふっ」
そう言われて悪い気はしない。
廊下の喧騒が少し和らぐ。
人の出が落ち着いたのだろうか。
控え室を出ると、廊下には人がいたがまばらになっていた。
エミリアたちは会釈をしながらカーペットの上を進む。
大広間への扉は開け放たれ、珠玉の音楽が響く。
美味しそうな肉、香辛料の香りも漂ってきていた。
ゆっくりと歩を進め、大広間の入り口で招待状を係員に渡す。
ロダンの顔を知らない者はいないので、すぐに通された。
「どうぞお楽しみに」
「ありがとう」
きらびやかなシャンデリア、数百のテーブルに料理が並ぶ。
楽団の数も料理の数も、エミリアが思っている以上ではあった。
(さすが大国ということかしら)
これほどの規模は体験したことがないほどだった。
練習の時にはわからなかったイセルナーレの本気度合いに、エミリアの胸が少し高鳴る。
「きゅっ」
「ま、まだだよ?」
「きゅー」
ルルは料理に目が釘付けになっていた。いきなり駆け出しはしないが……。
ロダンと一緒に大広間の扉から進むと――奥からワイングラスを掲げた人がゆったりと近寄ってくる。
「ロダン、ようやく夜会で会えたな。ふむ、やはりお前は夜にも映える」
艶やかな金髪にはわずかに赤のメッシュ。黒縁の眼鏡の向こうからは愉快そうな緑の瞳――。
最上級の青と赤の服をまとい、話しかけてきたのはイセルナーレ第4王子のブルースであった。
ロダンが軽く頭を下げ、応じる。
「殿下、どうかご容赦を。不慣れなものゆえ無作法があった時に恥の上塗りをしてしまいます」
「お前が? ふふっ、それはそれで楽しみだな」
ブルースは次にエミリアへと視線を移す。
「久しいな。うむ……まさに黒で染め上げられた高貴なる魔術師の出で立ちだ」
「恐縮にございます」
「ここでの決闘騒ぎは勘弁してくれよ」
ぎくっ。
一瞬、エミリアが頬をこわばらせる。その隙を見逃さず、ロダンがわずかに腕を引いた。
どうやら大学でのアレコレを……知られているような?
いや、もちろんこの場で決闘を吹っ掛けられても受けたりはしない。
そーいうのは後日、改めて。
この場でドンパチする気はない。さすがに。
「もちろんでございます」
笑みを直したエミリアに満足したのか、ブルースはフォードとルルに向き直る。
「私の子のフォードと精霊のルルでございます」
「フォードです……」
控えめながらもフォードは聞き取れる声でブルースに頭を下げた。
ほぼ5歳なら合格点ではなかろうか。
「将来が楽しみだ」
当たり障りのない言葉。
大丈夫、ということだろう。
ブルースにとって恐らく重要なのはロダンのほうだ。
「君も楽しんでいってくれたまえ」
「きゅっ!」
なんと意外にも、ブルースはルルをしっかり見つめて言葉を発した。
そうエミリアが思っていると、ブルースがロダンに顔を寄せる。
「この子は何を食べるんだ? というか、ここにあるものは食べられるのか?」
(ええっ……!? す、すごい気にしてくれてる)
「……ルルは何でも食べます」
「そうか。ならいいが。食べるものに困ったら言ってくれ。用意させるから」
……ロダンの目の奥にも若干の困惑が浮かんでいる。
まさかこんな反応が来るとは思っていなかった。
(もしかして……)
ブルース殿下はペンギンがお好きかもしれなかった……?
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