252.条件面
「うえええっ!?」
キャレシーは背筋が垂直になるほど驚き、硬直した。
「あ、いま……な、ななんと?」
かろうじて淑女の言葉遣いに戻そうと試みるが、虚しい努力かもしれない。
姿勢も変な上に、声もガタガタなのである。
対するフェザネードはキャレシーとは正反対に落ち着いていた。
「もちろんすぐに、というわけではないわよ。とりあえず……大学卒業のあとになるかしら。それまでに考えてもらえたら、とても嬉しい」
「な、なっう、なん……?」
「なぜキャレシーさんなのか? というと……ガネットの手綱を握れそうだからよ」
にこりとフェザネードが微笑む。
「あの子はほら、ああいう性格でしょう。自分が正しいと思ったら一直線に喰ってかかるから……」
はぁ、とフェザネードは息を吐いて首を振った。
キャレシーもそれはこれまでにも見てきたのでよくわかる。
「あの子も頭は回るから、相手に理があると思えば折れてくれるけど。でもそこまで付き合うとなると――ねぇ」
顎に手を当てて考えるフェザネード。
どことなく芝居じみた感じで、外堀が埋まる予感がする。
「その点、キャレシーさんは負けないで突き返す強さがあるわ。もちろんこれは私のほうから見た話でしかないけれど」
そこでフェザネードは一拍置く。
彼女の視線を受けて、キャレシーはごくりと喉を鳴らした。
「ガネットのことはどう?」
特別、好きじゃない。
それが問われたキャレシーが即座に出した答えだった。
でも、ぐるぐると色々なことが頭を回る。
そもそもキャレシーは男を好きになるというのがいまいちわからない。
恋愛どころか人間関係に億劫なのがキャレシーなのだ。
しかし人間関係なしに生きるのが難しいこともわかっている。
そこまで馬鹿ではないので、エミリアやガネットを頼っているのだ。
(……外見はまぁ、ガネットが整っているのはわかる)
ガネットは流行りのアクセサリーを身に着け、大学では常にセットされた髪型で通学してくる。
ごくたまに寝癖を残して通学するキャレシーからは信じられない自己投資だ。
それにガネットは客観的に見て、顔の造形も身体つきも良い。
いわゆる自信満々のイケメン。決闘自慢だけあって鍛えている。
(そこはあんまり、私としては……)
でも悪くない。むしろ自分より洗練され、オシャレである。
第三者視点で外見だけを評価すれば、キャレシーよりもガネットのほうが洗練されて魅力ある人物だと判定されるのは間違いない……。
(家柄なんかは比べるまでもなく……)
多分、キャレシーはアンドリアの平均的な市民の中にばっちり収まる。
取り立てて貧乏ではないが、名士や貴族階級からはほど遠い。
社交界のマナーも急いで頭に叩き込んでいるくらいだ。
対してガネットは貴族でさらに金もある。
今来ているガネットの屋敷の部屋数のなんと多いことか。
キャレシーの親族すべての家の部屋数を足したよりも多い。
さらに、クアレーン家はこれとは別にアンドリアにも広大な本邸がある。
(……お金、お金かぁ)
そうした打算的なところで判定するのは、キャレシー自身も気が進まない。
愛とか恋とかする性分ではないが、金で判断するのはもっと嫌だった。
もやもやもや。
ガネットとの色々な側面を考え込んでいると、いつの間にかフェザネードがすぐ近くにきていた。
「ふふっ、悩むぐらいには可能性があるということかしら。結論は本当にすぐ出さなくていいのよ?」
「は、はぁ……」
ここで受けるのはナシだ。
でも断るのも角が立つ。夜会が終わるまでフェザネードの顔を潰したくない。
(そうだ、とりあえず引き伸ばして――)
そこでキャレシーははっとする。
当のガネットはどうなのだろうか。
この話、ガネットは知っているのか?
いや、あの単純馬鹿のこと。
こんなことを知っていて隠すとも思えない。
十中八九、フェザネードの独断ではないかとキャレシーは思った。
「あのー……この件、ガネットは知っているんですか?」
「もちろん知らないわよ」
やっぱり、そうだ。
ガネットへ話は通っていないらしい。
「じゃあ、私が受けるとかそういう以前に……私が受けてもガネットのほうが嫌がるのでは?」
「そこは心配いらないわ」
フェザネードはまたまたにこりとした。
「色々ね、やり方というのがあるから」
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