250.フェザネード・クアレーン
意外にもガネットの踊り方は紳士的だった。
キャレシーに合わせて、ゆったりと踊りやすくしてくれる。
(コイツは本当に……やる時は真面目なんだよね)
普段の言動は腹立たしいものがあるが。
それでもその腹立たしさのいくらかは、彼のせいではない。
生まれた時から貴族で。
自信と能力にあふれて、同じくらいの友人に囲まれて。
そんなガネットが羨ましくて、キャレシーは反発してしまう。
「雑念を感じる。集中しろ」
「……はいはい」
ガネットに言われ、キャレシーは集中モードに自身を切り替えた。
魔法と踊りはどことなく、似ている。
魔法を使うのに身体は動かさないが、集中と無意識が重要だ。
結局、普段以上のことをやろうとしてもできないのが魔法と踊り。
集中したキャレシーは呼吸を合わせ、ガネットと踊った。
呆れるほどゆったりとしたリズムを刻んで。
なぜだか普通に踊るよりも倍以上、疲れた気がしたが……。
「まぁ、上々だろう……ふむ」
「ありがと」
「あとは集中を切らさなければ、なんとかなる」
手と身体が離れ、はぁーとキャレシーは大きく息を吐く。
大丈夫、夜会は数時間。
その間だけ頑張ればいい。
「あらあら、まぁ……レモネードでもどうかしら?」
「……あ、ありがとうございます」
キャレシーが涼やかな声に振り向くと、そこには金髪の淑女がいた。
彼女はレモネードと氷の入ったグラスをトレイに乗せて、にこにこしている。
目元にはややシワがうかがえるものの、十分若い。
金髪はふわっと豊かで、女性にしてはすらりと高身長。
その女性はどう見てもガネットによく似ていて。
内在するわずかな魔力も燃えるような火を感じた。
「――っ!?」
疲れていたキャレシーの息が止まりそうになる。
(この女性は――!)
「……母上。ここには来るなと」
「あら、いいでしょう? せっかくのご友人なんだもの。挨拶くらいさせてよね」
ガネットの声に比べると、その女性は非常に朗らかで取っつきやすい調子であった。むしろかなり軽い。
「さぁ、疲れた身体にはレモネードよ。氷が溶けないうちに飲んじゃってね」
グラスの乗ったトレイを差し出してくる彼女に頭を下げ、キャレシーはグラスを受け取った。
「あの……私、キャレシー・ビネットと申します。すみません、お邪魔しております……」
「フェザネード・クアレーンよ。ご丁寧にありがとうね」
人当たりの良さはガネットとは比べ物にならない。
「……頂きます」
「ええ、どうぞ」
キャレシーが恐縮しながらレモネードのグラスに口をつける。
レモンの酸味とはちみつの甘ったるさが炭酸で混じり合い、急速に身体へと染み渡る。
(あー、効く……っ!)
レモネードはキャレシーにとって、そう頻繁に飲めるものではない。
自分なら客が来ても、安い紅茶を出すのが精一杯だ。
「どうかしら?」
「美味しいです、とても」
「良かったわ。もう一杯持ってこようかしら」
「ええっ!? そ、それは……」
飲みたいかで言えば、もっと飲みたい。
あと2杯くらいはぐいぐいイケる。
しかしさすがにそれは問題あるような。
「いいのよ、ちょうど人から貰ったのがケース単位であるし。持ってきてもらうわ」
「い、いいんですか……?」
「ええ――それで、ガネット。あなたは悪いけどちょっと外してくれる?」
フェザネードは雰囲気をまったく崩さず、だが有無を言わさぬ調子でガネットへ言った。
ため息をついたガネットが両腕を上げて後ろに下がる。
「わかった。俺もやりたい課題があるしな」
「………」
そうしてガネットは広間から退出していった。
フェザネードはその間、メイドへレモネードを持ってくるように指示を出す。
(こ、これは……?)
わからない。
ガネットの母親が出てきたこともわからないが、自分となぜふたりきりになりたいのか。
その意味もキャレシーは読めないでいた。
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!







