246.カンニングかも……?
貴族学院時代のエミリアは、ダンスを楽しく思ったことがなかった。
下手だからではなく、決まったルールに従って身体を動かしていただけだからだ。
でも、今は違う。
ルルとフォードが奏でた音に乗って。ロダンのすべてを感じながら、踊り切った。
それは今までとは全然違った――血潮を乗せると、こうまで違うのか。
息を切らせたエミリアがロダンに顔を寄せる。
「ふぁ、どうだったかしら?」
「非の打ち所がなかった。ああ、こんなにも――」
「うん?」
「……ただ、楽しいとはな」
ロダンも同じようだった。
「すっごーい……あんなに身体が動くんだね」
「フォードも練習すれば、私くらいには動けるようになるわよ」
「う、うーん……まぁ、僕は……」
ルルがカスタネットをひとつ鳴らす。
「きゅ、きゅう!」
内なる熱い衝動が高まったら、踊ればいいさ!
と、言っている気がする。
「うん、そうだね。僕にはまだ早いよ」
「……きゅ!」
ルルがぽむぽむとフォードのズボンを叩く。
フォードも動けるはず……なのにもったいなくはある。
でも焦る必要がないのも確かだ。
ルルを見習って、待とう。
フォードの自発性も大事なのだから。
「ふぅ……あとはプログラムなどが決まったら、連絡する」
「ええ、そうね」
とりあえず踊りはこれで良し、らしい。
本番はさすがにここまで情熱的には踊らないけれど。
「外遊に出ているシャレス殿も、年末はイセルナーレで過ごすという。動きがあるかもな」
「……そうね」
実家の杯は気になる。とても気になっている。
だが、これこそ焦ってはいけない。
迂闊に動けば外交問題だ。
それからロダンの屋敷で夕食をともにする。
同じ広間で実際に料理をちょっと並べて。立食パーティーめいた食べ方をするのだ。
(さすがに大丈夫よ、これは!)
料理を受け取る時の優雅さ、フォークとナイフの使い方。
ウェイターを呼ぶ時の仕草。
ひとつひとつの動作に気を付ければ、なんということはない。
「きゅ……!」
ルルはテーブルの上に乗って、ナイフとフォークを駆使していた。
「…………」
ふもっとした羽から繰り出される、流れるようなナイフさばき。
さらに一切止まらず、シームレスにルルのくちばしへ料理が運ばれていく……。
「文句のつけようはないんだけど……」
もっきゅ、もきゅ。
ルルが本気になるとアンドリアの時のような肉奉行……もとい、完璧なテーブルマナーを発揮する。
しかし、これでいいのか?
「……問題はあるまい」
「そ、そうよね」
ちなみにフォードはガチガチに緊張していた。
こういった立食パーティー形式に慣れていないから、仕方ないが。
(まだ4歳だしね)
骨のついた魚料理を前にフォードの手が止まって。
ルルが小さく鳴いて羽を動かす。
「きゅ」
「う、うん」
魚を食べる時は背、腹と骨を取り除く。面倒なのだがそれがマナーだ。
で、フォードはルルの小さな鳴き声で順番を思い出したらしい。
「そうか、ルルから教えてもらえるんだな」
「きゅ……っ!」
ルルはペンギンであることを除けば、すべてにおいて完璧な食べ方を実践している。
「私は、常に席にいられるとは限らないしね」
「そうだな、どれだけ挨拶漬けになるか」
ロダンもやや憂鬱な声を出した。
フォードから目を離さないつもりではあるが、ずっと隣にいられるか。
「……ルルがいてくれれば安心ね」
「きゅっ!」
ルルがふにっと頷く。
大丈夫だろう、きっと……!!
ルルはテーブルマナーを熟知して、しかも夜会のルールの内側ぎりぎりにいるのだから。
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