244.家族と一緒に
それからエミリアは冬の王の背中だけでなく、他の曲もロダンの手拍子で練習した。
この世界でのメジャーな舞踏曲だけだが、身体はきちんと反応してくれる。
夜のコソ練も無駄ではなかったようだ。
「どの曲も素晴らしいな。ブランクを感じない」
「ふふっ……」
余裕の笑みを浮かべてみるエミリア。実際はかなりドキドキしながらの実演であったが。
むしろ驚くべきは手の叩き方やリズムで、きちんと曲を表現できているロダンのほうだ。
何でも隙がない男とはいえ、音楽の才能もあるのだろうか。
そこでふっとエミリアが思い至る。
「ロダンも準備してきたんでしょう? 夜会とか出てないのに、今の手拍子も――すっごく踊りやすかった」
そう、ロダンは社交界にはほとんど出ていないはずだ。
なのに曲の手拍子も踊りへの指摘も的を得ている。
これはロダンはロダンで、今日の為に練習をしてきたからに他ならない。
「……君だけに負担をかけるのは申し訳ない」
「真面目ねー……」
対価ならドレスだけでも十分過ぎる気がするのに。
でもとことんロダンは真剣だ。
(まぁ、そこが好きなところなんだけど……!)
「きゅー、きゅー」
「ルルも可愛いよ〜」
エミリアの後ろで踊っていたルルをフォードが撫で撫でする。
「きゅっ!」
「きちんと踊れてたよね、お母さん?」
「そうね……すごくしっかり踊れていたわ」
実のところ、ルルの踊りはエミリアの予想を超えて上手かった。
とはいえ、ルルの羽と脚はエミリアに比べると、すごーく短い。とても短い。
それゆえ物理的にエミリアの踊りを完コピすることはできていないのだが。
しかしできる範囲の再現度はかなりのモノ。それは忖度なしに保証できる。
「うむ……俺も問題ないと思う」
「きゅい!」
ありがとうとルルが羽をぴこぴこさせる。
ルルが会場の真ん中で踊ったら、それだけで絶対に話題になるような気もする。
(ま、まぁ……それはそれでヨシ、ということで)
一通り確認が終わると、ロダンがエミリアに向かって頷く。
「あとは――君と俺で少し踊るか」
「そうね、呼吸を少し見ておきたいし」
ということで踊ることにしたのだが、問題はリズムだ。
さすがのロダンも踊りながら手拍子は無理である。
「家の者にやってもらおう」
「……きゅっ!」
そこでルルが羽を掲げる。
『自分にはできますっ!』
と、ものすごく主張していた。
やる気はいいとして、ルルのリズムには問題がある
「えーと……羽で音が鳴らないような」
「きゅい!?」
ショックを受けるルル。フォードが少し考えて手を打つ。
「音が鳴るものを持ってもらえば……?」
「きゅー!」
フォードの考えは悪くない。
ということで、屋敷にあったカスタネットをルルが装着する。
(ルルの身体的に合うのがそれくらいなのよね)
カチカチ。
ルルが羽を器用に動かして動作を確認する。
「きゅ……!」
「いつでも大丈夫だってー」
ロダンとエミリアは顔を見合わせて、互いに手を組む。
「やってみるか」
「そうね――まぁ、大丈夫よ。ルルの羽さばきなら」
「うむ、アンドリアンで肉も焼いていたしな」
とりあえずはルルのリズム通りに。
「きゅー!」
ルルがきゅいきゅい鳴きながら、カスタネットを叩く。
中々のリズム感だ。
これなら踊れる。
「きゅーきゅー、きゅきゅー」
見ると、ルルは全身で『冬の王の背中』を奏でていた。
その隣でフォードも手を叩いて合わせている。
「きゅー、きゅー……」
冬の終わり。粉雪はついに溶け始める。冬の王も雪原に別れを告げる。
ロダンがゆっくりとエミリアの腰に手を回し、動き始めた。
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