243.冬の王の背中
冬の終わりは、ゆったりと。
静かに、衣擦れの音を鳴らさず。
身体が覚えている踊りを再現していく。
徐々にロダンの手拍子が速くなる。
雪解けは、人の歩みよりも遅く。
しかし止まることは決してない。
太陽の輝きは人知れず強まり、白く染まった雪原を照らす。
手拍子に合わせ、エミリア自身も速くなる。
「きゅい〜……」
「凄いね」
やがて春の日差しに似せるよう、踊りも変化する。
だが、激しくあってはいけない。
優しく、穏やかに。
冬の王の背中が遠く、見えなくなるまで。
(でも悲しむ必要はない。喜びとともに彼を見送り――)
冬の王はまた、次の冬に戻ってきて寒気をもたらし雪を降らす。
それでも別れを告げなければ。
春が来たのだから。
背中にじんわりと汗を感じた頃、手拍子が甲高く鳴り響き、最高潮に達した踊りが終わる。
「……ふぅ」
まだ一曲目。息は切らしていない。
でもやはり衰えは少し感じる。
(まだ22歳なんだけど……)
年齢では問題ないはずだが、高負荷の貴族学院時代からはやはり体力は落ちていた。
「お母さん、カッコいいー!!」
フォードが拍手してくれる。
ルルも羽をぺちぺちぺちと合わせてくれていた。
「きゅ、きゅー!」
「ふふっ、ふたりともありがとう……!」
そしてエミリアはロダンを見やる。
どこかぼーっと……。
「ロダン?」
「……すまん。見惚れていた」
そこでロダンがしまった、というように顔を背けた。
「忘れろ」
「えー? 今、なんて言ってくれたの?」
にまにましながら、エミリアがロダンの元に駆け寄る。
ロダンはやや頬を赤く染め、そっぽを向いたままだった。
(可愛い……)
普段クールで、素直に心情を吐き出すことはほとんどない。
そんな彼だからこそ、ふと漏らす本音がとても心地良く感じる。
楽しくなってロダンをじーっと見上げていると、彼がこほんと咳払いする。
「……あまりからかうな」
「はーい」
まぁ、こんなところにしておくか。
ということで、ロダンが講評に入る。
「全体的に問題はない。感情が入って見事だった」
「ありがとう。昔に比べて、どうかしら?」
エミリアがこう聞いたのは、貴族学院時代もこの『冬の王の背中』を踊っていたからだ。
「私見だが……今のほうが俺は好みだ」
昔のエミリアは多分に、感情的な面が欠落していたかもしれない。
踊りとしては問題なくとも、表現としては微妙……になっていたかも。
「ありがとう、ロダン」
「うむ……万全に万全を期すなら、転調のところか。ここは指揮者によって個性が出やすい」
「やっぱりそうよね、じゃあ……そこだけはもうちょっとやりましょうか」
ロダンの勧めに従い、エミリアは転調部分(冬から春に切り替わるところ)を重点的に踊った。
フォードとルルには暇な時間だが、本があるので退屈はしないはず――と思っていたら。
「きゅっ、きゅー!」
つつー……と。
身体を伸ばしながら、明らかに『冬の王の背中』を踊っていた。
エミリアのマネをするルルに、フォードは釘付けになっている。
「きゅい?」
「うん、とっても良いよ!」
「きゅー……!」
ルルは目に炎を灯し、やる気だった。
ルルは踊るつもりだ。舞踏の時間でも華麗に、もふふっと……!
「……えーと、ルルが踊るのは?」
「特に規定はないはずだな。まぁ、大丈夫じゃないか?」
賢いルルならいけるだろうというロダンの見込み。
それを聞いたルルは羽をぐっと持ち上げる。
「きゅ……っ!」
やる気だ。
エミリアよりも、遥かにルルは夜会で踊る気だ!
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