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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
4-1 宵闇に踊る

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239.キャレシーの想い②

 大学生活を数か月続けて、キャレシーも色々な繋がりができた。


 その中の最たるものはガネットだろう。


 彼は相変わらず馬鹿で、考えが足りない。考えればわかる頭は持っているのに、考えることを後回しにする。


(でも、前よりは考えるようになった……あいつも変化してる)


 アンドリアで接してた頃のガネットなら、この前のペーパーナイフの課題も全然クリアできなかっただろう。


 キャレシーの作業を確認するだなんて、絶対にしなかったはずだ。


 だが、この数か月でずいぶんと物の考え方が変わったと思う。


 そして同級生の女の子と話していると、たまにこんな話題になる。


「ねぇ、キャレシーは……誰かいいなって思う人を見つけた?」

「…………」


 そういうとき、キャレシーは答えないことにしている。


「こわっ! にらまないでよー!」

「にらむまではしてない……」


 かつて貴族は政略結婚がほとんどだった。しかしこの数十年、貴族でも恋愛結婚が多くなってきたのだとか。


 当然だが結婚相手を探す場として、大学という場は大いに有用だった。


 年頃の相手のことを適度に知れて、将来性も見極められる。


(……理屈はわかるけどさぁ)


 キャレシーはぼんやりと考える。

 

 アンドリアの平民の結婚はかなり早めだ。姉も従兄も18歳くらいの時にはもう結婚していた。


 だとすると、自分は……。


 そこで降ってきたのが夜会の話であった。

 面倒と思うのが間違いなく本心なのだが、一方で心の奥底に自分の未来がかかっていることは否定できない。


 そして今、エミリアの紹介で来たレイティアの店でドレスを着てみて――そんなに悪くはないと思ったりもする。


「髪型を変えて、首の角度を気を付けるだけでもかなり変わるわよ」

「……そう、かな?」


 キャレシーの言葉にエミリアがうーんと小首を傾げる。


「あなたは少し地面を見つめる癖がありそうだから」


 細かなところまでエミリアはよく見ている。


 普段ならちらっとにらむところだが、本当のところなので何も言えない。


「どうすれば……いいの?」

「そうね、姿見で首の角度を……」


 エミリアがキャレシーに近寄り、くいっと顎を上げる。


 力は感じなかったが、あまりに見事な手の動きにキャレシーの首が追従してしまった。


(これが貴族の嗜みってやつ!?)


「そう、このくらいの角度ね。感覚で覚えるしかないけれど……」


 キャレシーは不安になった。

 今は良くても肝心の夜会本番で首が下を向くかもしれない。


 大学では視線が地面を這っても咎められることはないが、夜会でそれをしたら失礼なのはわかる。


「適当な型紙か布はあるかしら?」

「ありますとも!」


 エミリアの質問にレイティアがすっ飛んで行き、すぐに戻ってくる。


 レイティアの手にあるのは人の身長ほどもある巨大な型紙だった。


「使わせてもらうわね」


 エミリアは型紙を手に取ると、キャレシーのそばで縦に広げる。


 そしてキャレシーの目線から追って……型紙の上のほうに指を置いた。


 それだけでレイティアは理解したようで、エミリアの指が置かれたところに朱色の小さな線を引く。


 それで紙の用は終わったみたいだ。


 型紙をくるりとまとめ、エミリアはキャレシーに型紙を手渡した。


「あの赤線が目線の中央に来るように。家で訓練するといいわ。あとは……そうね、目線の高さを他の人の身長で目測して補正したり。お姉さんの身長は参考になるかしら?」

「今の線の高さだと……姉の額あたり、かな……?」

「いいわね、じゃあイメージもしやすいと思うわ。魔術のように――思い浮かべて」


 貴族のマナーをそのように捉えたことはなかった。


 しかし、言われてみるとそのような考え方もありだ。


 夜会での振る舞いも魔術のひとつと思えば、気が楽になる。


(本当にこの人は、色々とできるのね)

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