239.キャレシーの想い②
大学生活を数か月続けて、キャレシーも色々な繋がりができた。
その中の最たるものはガネットだろう。
彼は相変わらず馬鹿で、考えが足りない。考えればわかる頭は持っているのに、考えることを後回しにする。
(でも、前よりは考えるようになった……あいつも変化してる)
アンドリアで接してた頃のガネットなら、この前のペーパーナイフの課題も全然クリアできなかっただろう。
キャレシーの作業を確認するだなんて、絶対にしなかったはずだ。
だが、この数か月でずいぶんと物の考え方が変わったと思う。
そして同級生の女の子と話していると、たまにこんな話題になる。
「ねぇ、キャレシーは……誰かいいなって思う人を見つけた?」
「…………」
そういうとき、キャレシーは答えないことにしている。
「こわっ! にらまないでよー!」
「にらむまではしてない……」
かつて貴族は政略結婚がほとんどだった。しかしこの数十年、貴族でも恋愛結婚が多くなってきたのだとか。
当然だが結婚相手を探す場として、大学という場は大いに有用だった。
年頃の相手のことを適度に知れて、将来性も見極められる。
(……理屈はわかるけどさぁ)
キャレシーはぼんやりと考える。
アンドリアの平民の結婚はかなり早めだ。姉も従兄も18歳くらいの時にはもう結婚していた。
だとすると、自分は……。
そこで降ってきたのが夜会の話であった。
面倒と思うのが間違いなく本心なのだが、一方で心の奥底に自分の未来がかかっていることは否定できない。
そして今、エミリアの紹介で来たレイティアの店でドレスを着てみて――そんなに悪くはないと思ったりもする。
「髪型を変えて、首の角度を気を付けるだけでもかなり変わるわよ」
「……そう、かな?」
キャレシーの言葉にエミリアがうーんと小首を傾げる。
「あなたは少し地面を見つめる癖がありそうだから」
細かなところまでエミリアはよく見ている。
普段ならちらっとにらむところだが、本当のところなので何も言えない。
「どうすれば……いいの?」
「そうね、姿見で首の角度を……」
エミリアがキャレシーに近寄り、くいっと顎を上げる。
力は感じなかったが、あまりに見事な手の動きにキャレシーの首が追従してしまった。
(これが貴族の嗜みってやつ!?)
「そう、このくらいの角度ね。感覚で覚えるしかないけれど……」
キャレシーは不安になった。
今は良くても肝心の夜会本番で首が下を向くかもしれない。
大学では視線が地面を這っても咎められることはないが、夜会でそれをしたら失礼なのはわかる。
「適当な型紙か布はあるかしら?」
「ありますとも!」
エミリアの質問にレイティアがすっ飛んで行き、すぐに戻ってくる。
レイティアの手にあるのは人の身長ほどもある巨大な型紙だった。
「使わせてもらうわね」
エミリアは型紙を手に取ると、キャレシーのそばで縦に広げる。
そしてキャレシーの目線から追って……型紙の上のほうに指を置いた。
それだけでレイティアは理解したようで、エミリアの指が置かれたところに朱色の小さな線を引く。
それで紙の用は終わったみたいだ。
型紙をくるりとまとめ、エミリアはキャレシーに型紙を手渡した。
「あの赤線が目線の中央に来るように。家で訓練するといいわ。あとは……そうね、目線の高さを他の人の身長で目測して補正したり。お姉さんの身長は参考になるかしら?」
「今の線の高さだと……姉の額あたり、かな……?」
「いいわね、じゃあイメージもしやすいと思うわ。魔術のように――思い浮かべて」
貴族のマナーをそのように捉えたことはなかった。
しかし、言われてみるとそのような考え方もありだ。
夜会での振る舞いも魔術のひとつと思えば、気が楽になる。
(本当にこの人は、色々とできるのね)
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