238.キャレシーの想い①
貴族様の会になんて出たくない。
姉から夜会のことを聞いて、キャレシーが真っ先に思ったことはそれだった。
(だって面倒。私は平民で貴族の流儀もわかんないし――)
わからないことは怖くて、億劫。
しかもどうせ、二度と関わらない人たちだ。
キャレシーは理解していた。
自分の家はアンドリアの平民で、裕福では決してない。
記者である父の収入が不安定なのと、家族が多いからだ。
キャレシーの家は大家族なうえ、親戚にも貸し借りがある。
やれ親戚の牧場近くの川が増水したら復旧費用を分担してとか。
農家の親戚が不作なら、その費用も負担とか――。
代わりに安くて美味しいものを贈られるのだが、現金はとにかく出ていく。
それが親戚に牧場主や農家をたくさん持つ、アンドリアの平均的家庭の姿であった。
(……不満を言うつもりはないんだけどね)
父の稼ぎは頼りなかったが、教育には熱心だった。
文を扱う記者だからだろうか。
キャレシーは両親の期待を受け、アンドリアの学校を優秀な成績で卒業し、イセルナーレ魔術大学に入学した。
しかも特待生として。
アンドリアの非貴族入学者としては、数十年振りらしい。
しかし、そこでキャレシーは疲れて、目標を見失った。
(大学を出て、魔術師になって、お金をもらって……)
で、どうなるのか。
と自問して答えられなくなったのだ。
しかも大学での講義はあまり心惹かれるものではなかった――講義内容も同級生も。
ガネットとその取り巻きとはアンドリアからの仲だが、特段親しいわけでもない。
彼はきちんとした貴族の出。
彼の取り巻きも騎士や魔術師の家で――馬鹿のように見えても、アンドリアの一般市民ではない。
臨時講師のエミリアも、最初は興味がなかった。
立ち振る舞いからして貴族の出だとわかったからだ。
最初の講義でちょっと挑発したのも、ささやかな反発心からだった。
だが、エミリアはぶっ飛んでいた。
いきなりガネットと決闘し、彼を完膚なきまでに叩きのめしたのだ。
そんな先生はこれまでひとりもいなかった。
ガネットはあれで変わった。
彼は器用で才能がある。
認めたくないが、それは確かだ。
なんでも適当にやって常人より上を行くし、生意気で馬鹿なくせに座学もできる。
魔術師、決闘者としての才覚は疑いようもない。
世の中を舐めていた彼が、これまでにないよう勉学に集中し始めたのだ。
「……でも私の世界とは違う」
入学から数か月して、話す同級生も増えた。
同級生は皆、いい人だ。
キャレシーの棘のある物言いも、付き合いの悪い振る舞いも許してくれる。
キャレシーは才能があって、平民だから。
大学帰りにどこかに寄って、飲み食いするほどキャレシーに余裕はない。
ほとんどの同級生は貴族街に屋敷がある。王都住まいの貴族でなくても、親戚の屋敷に下宿して大学に通うのだ
だから友達を招いてパーティーをするのも日常茶飯事。
貴族外交というやつだ。
そんなこともキャレシーには夢のまた夢。キャレシーの下宿はかなりのボロだ。
下手をしたら、同級生のメイドにあてがわれる部屋より小さくてガタがきているかもしれない。
それがなぜだか、王族主催の夜会に出るなんて――キャレシーは迷った。
頑強に断って夜会をパスするのもひとつの手ではある。
しかし、もうひとつの理屈もわかる。
夜会なんかを面倒がらず、きちんと出れば利益になるかもしれない。
(利益にならなかったら、こんな風習廃れているはずだし……)
もしイセルナーレ魔術大学の学生でなかったら、そんな視点はなかっただろう。
そこで誰に相談するのか、悩んだ選択肢がエミリアだった。
彼女はとても熱心な先生だった。
どんな講義の終わりでも最後までいて、学生の疑問に全て答える。
生意気なはずのキャレシーもガネットにも、分け隔てなく――いや、むしろ彼女からこそ強い期待を感じる。
(……それが、まさかこんなことになるなんて)
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