236.服を選んで
「……えっ。先生も活躍したから?」
今となってはそうかもしれない。
あの王子やロダンが気を遣った可能性はありそうだった。
ただ、そこは否定しておこう。
「何のことかしら? 私は、えー……カーリック伯爵に呼ばれたから行くだけよ」
ロダンと言いそうになって、ごまかす。
「カーリック伯爵……? あのめちゃくちゃ造形が整ってる人?」
「あなたも彼を知っているのね」
「先生、あの人を知らない人はイセルナーレにいないよ」
キャレシーは半ば呆れたふうに答える。
「一時期、王族の人たちが連れ回したからね。あれだけ外見が良くて、しかも名門貴族。魔術師としても一級とか……」
「連れ回されてたの?」
その話は初めて聞いたかもしれない。時期的にはエミリアが結婚生活(終わった)を営んでいた頃か。
「お偉い貴族様連中にとって、カーリック伯爵は門閥貴族の希望の象徴だからじゃない? 私は平民だからどーでもいいけど。でも陛下に直言させて止めさせたんだって」
「へ、へぇ……」
こわっ!
知らないところでとんでもない逸話が眠ってた。
でも彼女の口から、先に聞けて良かったと思おう。
「それからは騎士と平民向けの文化芸術、医療の式典にしか出てないんじゃないかな。貴族生活をしたがらないんだってね。だから庶民人気も凄いよ」
「……なるほど」
「私は世界が違いすぎるから、よく知らないけど。でもその私でもこれくらいは知ってる人」
「ありがとう、かなりわかったわ」
こうしてキャレシーとの話し合いは一度終わった。
(立ち振る舞いはある程度、教えられるとして)
ロダンに聞いてレイティアの店を紹介できるなら、そうしたほうが良さそうだ。
物覚えはとても良いし、真剣に取り組めば問題はないだろう。
(問題は私のほうか)
思えば、ロダンは自分が陽の光が当たる舞台に立つのを避けてきた。
そこに母のことがあるのは間違いない。
彼の中でまだ、母のことは飲み込めないのだろう――20代前半なら、当然だ。
エミリアはロダンのことを知りすぎているがゆえに、一般的なイセルナーレ人から彼がどう見えているかまで気にしていなかった。
(……夜会では大切なことだからね)
自分はロダンの隣に立つ。
そこに迷いも恐れもない。
でも、無策なのは頂けない。
勝負には用意が必要で、エミリアは決闘でも常にそうしてきた。
この夜会は勝負の場だ。
――絶対に外せない。
そうして1週間後、エミリアはルルとフォードを連れてレイティアの店に向かい、ふたりの服を用立ててもらった。
男の子向けの服はそんなに幅がなく、割とすんなり決まる。
フォードの服は黒の騎士服に似た、格好良い系だ。
(凄くいい……っ!)
フォードは照れながらもまんざらではなさそうだ。
姿見の前でくるりと一回りする。
「ど、どう? お母さん……?」
「とても良いわよ! 自信持って!」
「うん……っ」
実の親ということを差し引いても、フォードの出で立ちは様になっている。
で、問題はルルだった。
ルルも首元に黒のケープをつけて、フォードの隣にいる。
「きゅい」
くるっと姿見の前でルルが回る。
「きゅい?」
さらにもう一度、回る。
「えーと、これは……?」
レイティアがさすがに困ってエミリアに聞く。
「きゅいきゅい」
ルルがケープの端をちみっと羽でつまむ。フォードがそれを翻訳する。
「もうちょっと布を長くして欲しいんだってー」
「きゅー」
「はいっ! ただいま!」
レイティアが機敏に次のケープを取りに行く。
「きゅー……」
「うーん、今のままでもいいと思うけど?」
「きゅっ……!」
ルルが頭をぶんぶんと横に振る。
すでに4回目……ルルの納得するモノになるまで、もう少し時間がかかりそうだった。
ちなみにエミリアは……ケープをつけたルルを見て、前世の記憶を思い出している。
(てるてる坊主……かも……)
まぁ、可愛いことは可愛いのではあるが。
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