234.キャレシーの流儀
ルーンの消去自体は細心の注意を払い、きちんと行えている。
一緒に残っていたガネットの取り巻きも自慢げだ。
「きちんとやれれば、こんなもんさ〜」
「まっ、ガイド役が優秀だからな!」
ガネットも友人からの言葉に満更ではなさそうだが、やはり自身への怒りがあるのだろう。
それを解きほぐすのが、最後にエミリアのやるべきことだ。
「時間的な焦りのある中でも、あなたたちの集中力は途切れなかった。それは成長の証よ。もし入学時にこの課題をやるように言われていたら、どうだったかしら?」
「…………手も足も出なかったろうな」
当人はこういう性格ではあるが、ガネットの持つ才能と努力は決して並のものでない。
ルーン魔術の観点からすれば、ウォリスの貴族学院でも最上位なのは間違いないだろう。
「でしょう? ルーンの消去はなかなか成長の実感しづらい分野よ。そこでも数か月の努力でこれだけ変わる。手も足も出なかった課題があと一息のところまで、ね」
「だな……まぁ、なんとなく自分の中で『深く』なっている感じはあるぜ」
「大事なことよ。スイッチの切り替え、集中の深さは――他の魔術の分野でもね」
「おう、そうだな……!」
エミリアの励ましで、ガネットの何かが吹っ切れる。
怒りは収まり、やる気が彼の身体を満たしていた。
「よっしゃあ! 運動場で組み手だぁ!」
ガネットが立ち上がり、鞄を引ったくるとそのまま講義室を友人たちと出ていった。
「うーん、勢いがあるわね……!」
ムラッ気はガネットの特質だ。
アレをコントロールできるようになれば、もっと魔術師として成長できるだろう。
ガネットたちの帰った後、キャレシーもそそくさと帰り支度を始める。
彼女にもエミリアは声をかけた。
「……心配だったのね?」
「別に」
素っ気なく答えるキャレシー。
彼女はいつもこうだった。
もっとも、彼女の本心は行動に出ているとエミリアは感じているのだが。
キャレシーが重ねて言う。
「キレてるあいつが面白そうだったから、見てただけ」
(それを心配してるっていうような……)
キャレシーは何かにつけて、ガネットを気にかけている。
「……じゃあ、今のガネットはもう心配してない?」
「うん。あいつは単純だから。すぐにカッときて、落ち着く」
周囲に興味ない素振りをしていても、キャレシーはよく分析している。
(あとはもうちょっと、打ち解けてくれれば――本人も得るところは大きいと思うんだけど)
彼女はいまだに一匹狼だ。
学年でも一目置かれる存在だからこそ、惜しく思う。
「そう言えばさ」
「うん?」
「この前、アンドリアの実家にちょっと帰省して……聞いたんだけど、あそこでとんでもない大立ち回りしたのって先生?」
どきーっ!
思ってもみなかったところから、2か月前のことに踏み込まれた。
あの事件はもちろん新聞や雑誌を大いに賑わせた。
だが、あの事件の詳細について――犯人や動機、解決した人物などはシャレスが情報を封鎖している。
なので世間一般があの事件について知ることは決して多くない。
「な、何のことかしら? さっぱり心当たりが……」
「私の姉貴、警察官なんだけど。ペンギンと子どもを連れた、途轍もなくヤバい黒髪の魔術師がビーバーを帰らせてくれたとかなんとか」
「…………」
あの事件はむやみに口外しないよう、エミリアもシャレスから言われてる。
なので、目が泳ぎまくるエミリア。
「あ、あれについては黙秘権を行使したいわ」
「そんな魔術師は先生くらいだと思うけど……」
「いえっ! 私である可能性が高くても、それは私であることとイコールじゃないわ……!」
キャレシーの疑わしい目が向けられる。
「いずれにしても、あのことは何も知らないし。言えることはないわよ」
「まぁ……期待はしてなかったけど。でもちょっと面倒なことになって」
そこでキャレシーが目を伏せた。
珍しい仕草だ。
彼女にも関係があって、面倒なこと……??
「……相談に乗ってほしいんだけど」
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