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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
4-1 宵闇に踊る

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234/308

234.キャレシーの流儀

 ルーンの消去自体は細心の注意を払い、きちんと行えている。


 一緒に残っていたガネットの取り巻きも自慢げだ。


「きちんとやれれば、こんなもんさ〜」

「まっ、ガイド役が優秀だからな!」


 ガネットも友人からの言葉に満更ではなさそうだが、やはり自身への怒りがあるのだろう。


 それを解きほぐすのが、最後にエミリアのやるべきことだ。


「時間的な焦りのある中でも、あなたたちの集中力は途切れなかった。それは成長の証よ。もし入学時にこの課題をやるように言われていたら、どうだったかしら?」

「…………手も足も出なかったろうな」


 当人はこういう性格ではあるが、ガネットの持つ才能と努力は決して並のものでない。


 ルーン魔術の観点からすれば、ウォリスの貴族学院でも最上位なのは間違いないだろう。


「でしょう? ルーンの消去はなかなか成長の実感しづらい分野よ。そこでも数か月の努力でこれだけ変わる。手も足も出なかった課題があと一息のところまで、ね」

「だな……まぁ、なんとなく自分の中で『深く』なっている感じはあるぜ」

「大事なことよ。スイッチの切り替え、集中の深さは――他の魔術の分野でもね」

「おう、そうだな……!」


 エミリアの励ましで、ガネットの何かが吹っ切れる。

 怒りは収まり、やる気が彼の身体を満たしていた。


「よっしゃあ! 運動場で組み手だぁ!」


 ガネットが立ち上がり、鞄を引ったくるとそのまま講義室を友人たちと出ていった。


「うーん、勢いがあるわね……!」


 ムラッ気はガネットの特質だ。

 アレをコントロールできるようになれば、もっと魔術師として成長できるだろう。


 ガネットたちの帰った後、キャレシーもそそくさと帰り支度を始める。


 彼女にもエミリアは声をかけた。


「……心配だったのね?」

「別に」


 素っ気なく答えるキャレシー。

 彼女はいつもこうだった。

 もっとも、彼女の本心は行動に出ているとエミリアは感じているのだが。


 キャレシーが重ねて言う。


「キレてるあいつが面白そうだったから、見てただけ」


(それを心配してるっていうような……)


 キャレシーは何かにつけて、ガネットを気にかけている。


「……じゃあ、今のガネットはもう心配してない?」

「うん。あいつは単純だから。すぐにカッときて、落ち着く」


 周囲に興味ない素振りをしていても、キャレシーはよく分析している。


(あとはもうちょっと、打ち解けてくれれば――本人も得るところは大きいと思うんだけど)


 彼女はいまだに一匹狼だ。


 学年でも一目置かれる存在だからこそ、惜しく思う。


「そう言えばさ」

「うん?」

「この前、アンドリアの実家にちょっと帰省して……聞いたんだけど、あそこでとんでもない大立ち回りしたのって先生?」


 どきーっ!


 思ってもみなかったところから、2か月前のことに踏み込まれた。


 あの事件はもちろん新聞や雑誌を大いに賑わせた。


 だが、あの事件の詳細について――犯人や動機、解決した人物エミリアやロダンなどはシャレスが情報を封鎖している。

 なので世間一般があの事件について知ることは決して多くない。


「な、何のことかしら? さっぱり心当たりが……」

「私の姉貴、警察官なんだけど。ペンギンと子どもを連れた、途轍もなくヤバい黒髪の魔術師がビーバーを帰らせてくれたとかなんとか」

「…………」


 あの事件はむやみに口外しないよう、エミリアもシャレスから言われてる。


 なので、目が泳ぎまくるエミリア。


「あ、あれについては黙秘権を行使したいわ」

「そんな魔術師は先生くらいだと思うけど……」

「いえっ! 私である可能性が高くても、それは私であることとイコールじゃないわ……!」


 キャレシーの疑わしい目が向けられる。


「いずれにしても、あのことは何も知らないし。言えることはないわよ」

「まぁ……期待はしてなかったけど。でもちょっと面倒なことになって」


 そこでキャレシーが目を伏せた。

 珍しい仕草だ。


 彼女にも関係があって、面倒なこと……??


「……相談に乗ってほしいんだけど」

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