232.課題終了
「なんでそんなマネを……?」
「失敗させるためさ。身をもってな」
ルーンの消去と言われて課題を渡されれば、皆ルーンのほうに意識が向く。
まさか土台のペーパーナイフに仕掛けがあるとは思わない。
だが、教科書にもこう書いてある。
『ルーンの刻まれた土台にも注目すること。ルーンの消去は土台に負担をかける。再利用品の場合、無分別に魔力の負荷をかけてはならない』
当然、大きすぎる負荷は土台をも傷つけてしまう。
(てか、この課題のためにペーパーナイフを用意したのか? そこまではわからねーけど)
暇というか、熱心というか。
他の講師には見られない課題への手の込みようだ。
(まぁ、種はわかった。柄以外に仕掛けはない……ここだけ丁寧に進めて、あとは一気にやる!)
「よし、柄に集中だ……!」
「お、おう!」
時間的には極めて厳しいが、ガネットたちは諦めることなく作業を再開させる。
気を付けるべきは柄だ。
柄だけ負荷を考えてやれば、他はなんとかなりそうなのだ。
数十分後、他の班からパキッと金属が割れる音が聞こえた。
「あ、あれ? ナイフが壊れた……!」
「こっちも! なんでー!?」
どうやら失敗した班が出てきたらしい。
「お、おい……これって……」
「他を気にするなよ。間に合わなくなるぞ」
キャレシー班は柄部分が終わり、刀身部分のルーン消去に移っていた。
刀身部分になると一気にスピードがアップしている。
少し余裕を持ってキャレシーの班は終わりそうだ。
彼女の計算通りということか。
(……焦るな)
出遅れてしまったが、まだ間に合う。その気持ちでいないと手が止まりかねない。
(心を落ち着けろ――)
ガネットは意識して心から雑念を追い払う。
ペーパーナイフの仕掛けも周囲の喧騒も、忘れるしかない。
目の前のルーンと土台だけ。
「……やってやるぜ」
息を吐いて集中を重ねる。
追い詰められた時にこそ、ガネットは集中が高まる。
まだおぼろげではあるが――今回もその感覚が脳裏に浮かんできていた。
「――はい、そこまで!」
エミリアが手を叩き、課題に取り組む時間の終了を告げる。
予想通りと言うべきか、ほとんどの班は失敗した。
ルーンだけを見て脆弱なペーパーナイフの土台まで見なかったからだ。
(ちょっと意地悪かなと思ったけど……)
クリアできた班はただひとつ。
キャレシーの班だけだった。
ガネットの班もいいところまで行ったのだが、間に合わなかった。
「くっそ……っ!!」
ガネットは額に血管が浮き出そうなほど悔しがっている。
「あと数分あればなぁ」
「ガネット、お前のせいじゃねーよー」
班の皆に慰められても、彼の心は晴れないようだ。
エミリアはキャレシーからペーパーナイフを受け取る。
柄の部分もどこも割れず、完璧にルーンが消されていた。
文句のつけようもない。
「どうして仕掛けに気付いたのかしら?」
「消す対象のルーンが簡単すぎたから。これじゃ、全員クリアできると思って」
キャレシーは他の班がペーパーナイフを手に取るのを観察して、ルーンの難易度を冷静に目算していた。
「だから他に何かあるかも――と?」
「そう。教科書で習った範囲だと、あとは土台部分しかないし」
キャレシーは的確に講義の範囲から疑わしい部分を特定したわけだ。
「手に取って見たら、柄の部分にヒビがあった。あとはその部分だけ気を付けて作業しただけ」
「完璧ね」
エミリアの言葉を聞いて、キャレシーがじっとペーパーナイフを見つめる。
「それより聞きたいんだけど、こんな欠陥品のペーパーナイフに課題用のルーンを刻めるなんて、どんな人が作業したの?」
そこで学生たちがはっとした。
そうだ、ルーンを消すのも難しいが――刻むのも簡単ではない。
こんなヒビの入ったペーパーナイフでは、そのはずだった。
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!







