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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
4-1 宵闇に踊る

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232.課題終了

「なんでそんなマネを……?」

「失敗させるためさ。身をもってな」


 ルーンの消去と言われて課題を渡されれば、皆ルーンのほうに意識が向く。


 まさか土台のペーパーナイフに仕掛けがあるとは思わない。


 だが、教科書にもこう書いてある。


『ルーンの刻まれた土台にも注目すること。ルーンの消去は土台に負担をかける。再利用品の場合、無分別に魔力の負荷をかけてはならない』


 当然、大きすぎる負荷は土台をも傷つけてしまう。


(てか、この課題のためにペーパーナイフを用意したのか? そこまではわからねーけど)


 暇というか、熱心というか。


 他の講師には見られない課題への手の込みようだ。


(まぁ、種はわかった。柄以外に仕掛けはない……ここだけ丁寧に進めて、あとは一気にやる!)


「よし、柄に集中だ……!」

「お、おう!」


 時間的には極めて厳しいが、ガネットたちは諦めることなく作業を再開させる。


 気を付けるべきは柄だ。

 柄だけ負荷を考えてやれば、他はなんとかなりそうなのだ。


 数十分後、他の班からパキッと金属が割れる音が聞こえた。


「あ、あれ? ナイフが壊れた……!」

「こっちも! なんでー!?」


 どうやら失敗した班が出てきたらしい。


「お、おい……これって……」

「他を気にするなよ。間に合わなくなるぞ」


 キャレシー班は柄部分が終わり、刀身部分のルーン消去に移っていた。

 刀身部分になると一気にスピードがアップしている。


 少し余裕を持ってキャレシーの班は終わりそうだ。

 彼女の計算通りということか。

 

(……焦るな)


 出遅れてしまったが、まだ間に合う。その気持ちでいないと手が止まりかねない。


(心を落ち着けろ――)


 ガネットは意識して心から雑念を追い払う。

 ペーパーナイフの仕掛けも周囲の喧騒も、忘れるしかない。


 目の前のルーンと土台だけ。


「……やってやるぜ」


 息を吐いて集中を重ねる。


 追い詰められた時にこそ、ガネットは集中が高まる。


 まだおぼろげではあるが――今回もその感覚が脳裏に浮かんできていた。






「――はい、そこまで!」


 エミリアが手を叩き、課題に取り組む時間の終了を告げる。


 予想通りと言うべきか、ほとんどの班は失敗した。


 ルーンだけを見て脆弱なペーパーナイフの土台まで見なかったからだ。


(ちょっと意地悪かなと思ったけど……)


 クリアできた班はただひとつ。

 キャレシーの班だけだった。


 ガネットの班もいいところまで行ったのだが、間に合わなかった。


「くっそ……っ!!」


 ガネットは額に血管が浮き出そうなほど悔しがっている。


「あと数分あればなぁ」

「ガネット、お前のせいじゃねーよー」


 班の皆に慰められても、彼の心は晴れないようだ。


 エミリアはキャレシーからペーパーナイフを受け取る。


 柄の部分もどこも割れず、完璧にルーンが消されていた。

 文句のつけようもない。


「どうして仕掛けに気付いたのかしら?」

「消す対象のルーンが簡単すぎたから。これじゃ、全員クリアできると思って」


 キャレシーは他の班がペーパーナイフを手に取るのを観察して、ルーンの難易度を冷静に目算していた。


「だから他に何かあるかも――と?」

「そう。教科書で習った範囲だと、あとは土台部分しかないし」


 キャレシーは的確に講義の範囲から疑わしい部分を特定したわけだ。


「手に取って見たら、柄の部分にヒビがあった。あとはその部分だけ気を付けて作業しただけ」

「完璧ね」


 エミリアの言葉を聞いて、キャレシーがじっとペーパーナイフを見つめる。


「それより聞きたいんだけど、こんな欠陥品のペーパーナイフに課題用のルーンを刻めるなんて、どんな人が作業したの?」


 そこで学生たちがはっとした。


 そうだ、ルーンを消すのも難しいが――刻むのも簡単ではない。

 こんなヒビの入ったペーパーナイフでは、そのはずだった。

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ガネット君は伸びそうですねえ 失敗は成長の土台 悔しさは成長の燃料
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