226.ドレスコード
その後、似た雰囲気のドレスを着てみる。
仕立ててもらうドレスに比べるとだぼっとしすぎではあるが……雰囲気は似ている。
「ああ、素晴らしいですわ。このような御方のためにドレスを仕立てることこそ、我が店の誉れでございます!」
レイティアの目には本物の羨望が浮かんでいる。
まぁ、エミリアの顔とスタイルはかなり良い。
それは間違いなかった。
一流のドレスを着て化粧すれば、めちゃくちゃ映える。
(……貴族学院時代を思い出すわ)
あとはなんちゃってアクセサリーを借りて……。
「ロダンにちょっと見せてくるわね。大丈夫かしら?」
「もちろん、ぜひお披露目してくださいませ」
一瞬、レイティアが驚いたような顔をしたのをエミリアは見過ごさなかった。
反応したのは「ロダン」の部分か。
(ファーストネームで呼ぶ仲だとは思ってなかったのかしら?)
ロダンがどこまでレイティアに説明したかだが、多分……深いところまで言っていないのだろう。
(思えば立場の違いもあるし、吹聴するはずもないか)
エミリアとロダンの仲について、誰にどこまで開示するかは慎重に考えなければ……ということだ。
エミリアはレイティアと一緒に店先に戻って、ドレスをロダンへ披露する。
黒のドレス。似た雰囲気だが、エミリアの自己評価は悪くない。
「どう?」
「…………」
ロダンがじーっとエミリアを見つめて押し黙った。
いつも体温低めなロダンだが、口下手と言うわけではない。
エミリアがあまり見ないロダンの反応に少し焦る。
「な、なに? なになになに?」
「………とてもよく似合っている」
ロダンの色気ある声音に、エミリアのほうがドキリとした。
そういう反応になるとは思っていなかった――不意打ちだった。
エミリアの頬と胸が一気に熱くなり、血液が巡る。
「あ、うん……」
言ってから、なんとか平静を取り戻そうとするエミリア。
「これをベースに仕立ててもらうんだけど、問題はないわよね」
「ああ、大丈夫だ」
ロダンは前髪をかき上げ、エミリアもちょっとドレスの裾を弄った。
(やばっ……恥ずかしいっ!)
あの旅行からやはり、意識の度合いが高まってしまっている。
(平常心でいないと――!)
ロダンが咳払いしてエミリアに問う。
「アクセサリーはどうする?」
「……まぁまぁ、ちゃんと見繕うわ」
さすがにそこまで世話にはなれない。
エミリアがそう答えると、ロダンの青い瞳がエミリアを覗き込む。
(うっ……心の底まで見破られそう)
「俺の家にもそこそこの装飾品はある。そのドレスならアクセサリーは必要だろう? 時間のある時に見てくれ」
「貸してくれるの?」
「このために買うのは君の流儀に反するだろうからな」
「そうね、その通りよ」
阿吽の呼吸というか、なんというか。
エミリアの考えていることはお見通しらしい。
「君のドレスが決まったら、あとはフォード君の服だな」
さも当然のように言うロダンに対し、エミリアは手を振る。
「えっと……そこまでは世話になれないわ」
エミリアはちょっと強めに答えて、しっかり頷く。
「あの子の服を選ぶのは私の楽しみなんだから」
「……そうか、そうだな」
エミリアの言い分にロダンはそれ以上、言葉を重ねなかった。
フォードも夜会に連れていくとして、問題は――。
「ルルの服はどうしようかしら?」
「ふむ……」
ロダンが即答せず腕を組む。
やはりそこは悩みどころらしい。
ふたりの様子を見たレイティアが、そーっと口を挟む。
「ルル様……というのは、ご親戚の子でしょうか?」
「いえ――ペンギンなの」
「……えっ?」
「精霊のペンギンちゃんなの」
ペンギンにドレスコードは要求されるのだろうか?
そこが問題だ……。
絶句したレイティアの前で、ロダンが静かに呟く。
「俺の認識では、犬や猫に準じると思う。だとするとやはり服がいるな」
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