225.ドレスのレイティア
ということで、善は急げ。
夜会用の服を買いに出かける……というより、ロダンは元から自分からお金を出す気しかなかったようだ。
「……そんなに急がなくてもいいと思うんだけど」
「特に定めがないなら、早くやってもよいだろう?」
まぁ、先に用意されていれば安心ではあるか。
ロダンに連れられて向かったのは王都の貴族街の入り口近くにある仕立て屋だった。
入り口には大理石の円柱と水の女神の像が華麗に佇む。
イセルナーレで住んでいると、ウォリスよりも圧倒的に像が多い。
この仕立て屋も間違いなく、その一部だった。
ロダンとともに仕立て屋に入ると、糸目の女店主がすっ飛んできた。
年齢は30代前半だろうか。
濃い紫にも見える髪に、かなりの長身でスタイルが良い。
彼女は揉み手をしながら、ロダンとエミリアを出迎えた。
「これはこれはカーリック様。先日のお話の件でしょうか?」
「ああ、隣にいるのが――」
「エミリアと申します」
エミリアはしっかりと頭を下げて礼をする。
貴族街の直下にある仕立て屋、しかもこの門構え。
かなりの老舗店で実力ある店と見ていいだろう。
内装も豪華で、貴族の礼服やドレス専門店のように見える。
(そうでなければ、ロダンは私を連れてこない気もするし……)
「これはなんと、ご丁寧に。わたしのことはレイティアとお呼びくださいませ」
レイティアも深々とお辞儀する。
その綺麗な所作に、商売人以上のものをエミリアは感じ取った。
(……店主のレイティアさんも貴族の出身かしら?)
こういう勘はエミリアは非常に優れていた。
多分、当たっているだろう。
「それでエミリアの夜会用のドレスを頼みたい。なるべく急ぎで」
「かしこまりました。では、エミリア様……どうぞ奥へ」
レイティアに促され、仕立て屋の奥に向かう。
扉をひとつ隔て、廊下を少し歩くと多数のドレスが並ぶ一室に辿り着いた。
棚という棚にドレスがハンガーで仕舞われ、ぎゅうぎゅう詰めになっている。
「おおっ、壮観ですね」
「ありがとうございます。本来であれば、私のほうで色々と候補を選り分けるところなのですが……」
その言い方でエミリアは少し察した。
多分、エミリアがウォリス育ちであると聞いているのではないだろうか。
「えーと、ウォリスのセンスではなくイセルナーレのセンスで選んでもらえれば……」
「……! はい、ではまずは……!」
レイティアがすすーっと棚から黒のドレスを取り出す。
金と銀の紋様が入り、身体のラインが出ないゆったりドレスだ。
しかし裾や袖にはシュシュのような布飾りがついており、気品ある遊び心も備わっている。
(中々にセンスいいわね)
前世の記憶があるエミリアは、そのドレスの良さがすぐにわかった。
ウォリスならあまりに前衛的すぎるだろうが、今のイセルナーレではこれでも大丈夫なのだろう。
「お気に召しましたか?」
「ええ、私の黒髪にも合いそうね」
「紋様などはもちろん変更できます。アクセサリーに合わせて細かくオーダー頂ければ、きっと心からご満足頂ける夢の一着になるかと……」
アクセサリーか……。
それも手持ちの物は当然、イセルナーレに来た時に全部売った。
今、エミリアが身に付けているのは、なんちゃってキラキラアクセサリー1000ナーレ(2000円くらい)なものである。
(あんまり高くないものにしたいけど、ナシってわけにもいかないしな――)
今のエミリアは物欲に乏しい。
いや、正確に言うとフォードとルルのためにファッションにまでお金を回したくないだけだ。
「とりあえずドレスについて、詳細を詰めましょう。アクセサリーはドレスに合わせればいいわ」
「承知いたしました。では、紋様のカタログはこちらになっておりまして」
レイティアが分厚い冊子を取り出す。
その冊子には1ページごとに手描きイラストで様々な紋様が掲載されていた。
「直にご覧になりたいということでしたら、お申し付け頂ければ極力近しい紋様をお出ししますので」
棚を振り返り、レイティアが答える。
この数百着あるドレスの棚から、似たような紋様のものを見せてくれる?
普通ならできないことだろうが、愚問だろう。
それができるからこそ、貴族街の直下で店を開いているのだろう。
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