224.冬になって
秋のアンドリア旅行から2か月ほどが経過して、12月になった。
冬でもイセルナーレはさほど寒くなく、雪はあまり降らない。
暖かい海からの風がそうさせるのだという。
ルルは秋にたまった脂肪を絶賛、消化していた。
(正直、むっちりぽよぽよでも可愛いんだけど……)
しかし横幅はちゃんと抑制しなければならない。
「きゅ〜」
ルルは家の中に作った簡易的なアスレチックをふにふにとほふく前進する。
「きゅーきゅー」
「うんうん、その調子〜」
監督役はフォードだ。
フォードももちろん大きくなっている。
確か4歳児は1年間に5センチくらい背が伸びるはず。
なのでほんの数センチ、フォードもイセルナーレに来てから成長していた。
12月後半にはフォードの誕生日もあって、5歳になる。
日常はそれほどの変化もなく、エミリアは日々フォードを育ててルルを愛でながら精力的に生活していた。
仕事も順調だ。講師業をやりながら、ルーンの消去も請け負う。
夏にイセルナーレに来てから、かなり順調な毎日と言えた。
(気になるのは――杯の件ね)
その日、エミリアはロダンとひっそりとしたレストランの個室に来ていた。
フォードとルルはセリスが見てくれているのだが……デートではない。
「シャレス殿から連絡はなし?」
「今のところは待機の一言だ」
杯の件を話すので、ふたりきりなのだ。
シャレスはロダン経由で情報を受け取っているはず。
それでも2か月間、何も動きがないとは。
やはり簡単なことではない、ということなのだろう。
「一応、それなりの頻度で問い合わせているが、コンタクトも慎重にせねばならんからな」
「そうねー」
エミリアは焼き魚をもぐもぐと食べた。
脂が乗った白身魚の身が美味しい。
バター味も良いのだが、ここに醤油をかけたい気分だ。
「……で、ついに来たぞ」
「うん?」
「夜会の件だ。逃げられないのが来た」
おー、とエミリアは思った。
一緒に出る出ると言って、何の音沙汰もなかったわけだが、ついに来た。
「逃げられないのって、どういうの?」
「俺の上役であるブルース殿下だ。会ったことがあるだろう?」
艷やかな金髪、黒縁の眼鏡のオジサマだったような。
「確か、イセルナーレの第4王子だっけ」
「そう、その御方だ。殿下主催の夜会に呼ばれた」
もぐもぐ。
エミリアは手を止めずに話を聞いていた。
普通なら王族が主催の夜会と聞いて、ビビるのかもしれない。
(でもまぁ、私もウォリスの王族とは夜会でフツーにできていたし)
保守的なウォリスでは夜会も礼儀作法に厳しい。理不尽に厳しい。
ウォリスに比べれば多分、イセルナーレは緩やかなのではないかと思う。
「それに出ればいいのね?」
「臆さないのだな」
「経験はありますからね」
エミリアの心はこの話を聞いても揺らいでいない。
杯のほうがよほど心配だった。
でも夜会については、ロダンのほうがエミリアよりも心配している気がする。
「王族が出ると言っても、特別なことがあるわけでもないし」
「頼もしい限りだな」
そこでロダンはふっと言葉を切った。
「で、服はどうするつもりだ?」
「うーん、まぁ……」
持ってきたドレス類は全部、イセルナーレに来たとき売り払った。
なので夜会用の服はない。
「適当に探して買っておくわ」
「……そんな気がした。俺の用件なのだから、俺が出す」
「えー……」
エミリアは家族を除いて、男から服を買ってもらったことがない。
結婚生活から揃えたドレス類も、その原資は実のところエミリアの財布から。
なので男の人から服を――ドレスを買ってもらうことに懐疑的でさえあった。
そんなエミリアの心の声を読み取っているのか。
ロダンがじーっとエミリアを見る。
有無を言わさぬ圧だ。
「俺が出すからな?」
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