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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
3-4 距離を縮めて

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221/308

221.ひとつの代償

 数日後、ウォリスにて。


 シーズは先になんとかウォリスへと逃げ帰っていた。

 共犯者であるソルミは捕まって気を揉んでいたが、彼もすぐに釈放されると聞かされた。


(ほら、見なさいよ! やっぱりそう簡単に捕まりはしないんだわ!)


 シーズはその一報に胸を撫で下ろし、ソルミの帰国を待った。


 釈放されたソルミは送り返される形で、すぐにウォリスへと到着した。


 ソルミがオルドン公爵家の屋敷に帰ってきたことで、シーズはささやかながら祝宴を行った。


 参加者はシーズとソルミだけ。

 そこでシーズは得意満面になっていた。


「ふん、私の言った通りだったでしょう?」

「……ああ」


 シーズは企みが上手く行ったことで上機嫌であった。

 用意されたワインに彼女は口をつける。


「財産分与はしなくちゃいけなかったけど、愉快だったわ。あんたもすぐ釈放されたしね?」

「それはそうなんだけどね。でもイセルナーレは相当怒っていたよ」

「脅してきただけでしょう」

「……………」


 気弱なソルミを見るだけで、最近のシーズはイライラしてくる。


 だが、今日は言うまい。

 あのイセルナーレに一泡吹かせた祝勝会なのだから。


「ウォリスの政府も……怒ってるんじゃあないかな? 彼らの忠告を無視した形になったんだから」

「私には何にも言ってきていないわよ」


 ワインを飲みながらシーズは答えた。

 

「大して気にしてないんじゃないの。捕まったのはあんただけなんだから」


 ソルミが落ち着きをなくした目でパンを掴む。

 が、ソルミは力の加減を間違えたのかパンを取りこぼしてテーブルの下へと落としてしまった。


「なにやってるのよ……」

「ご、ごめん! あれ、パンはどこへ……」


 テーブルの下へと潜るソルミに、シーズも軽く頭を下げる。


「そこよ、そこ。テーブルの右の脚のところ」

「あ、ああ……ありがとう!」


 シーズは姿勢を戻して、ワイングラスを持った。


「まったく、どんくさいんだから」


 今日はとことんまで酔いたい気分だ。ワイングラスを改めて手に取り、ぐいっと飲む。


「今日のワインは本当に――」


 そこでシーズは喉からこみ上げる痛みに気が付いた。


「がっ、あっ……っ!!」


 喉と胸が焼けるようだ。

 たまらずシーズは椅子から転げ落ちて、喉を掴む。


「あっ、ぐっぅう……! こ、これは……っ」


 張り裂けんばかりの痛みと血の味がする。なんとか息を吐くと血が大量に混じっていた。


「あ、あなた……っ」


 シーズはソルミを見上げた。

 ソルミは……悲しんでいた。


「おっ、まえ……あの、イセルナ……」


 途切れ途切れになりながら、シーズはソルミを睨んだ。


 まさか、売ったのか。

 あの女とイセルナーレに自分を。


 だが、ソルミは首を振った。


「これを僕に命じたのはウォリス政府だよ」

「……っ!」

「その裏にはイセルナーレがいるかもしれないけれど、僕にこの毒を渡したのはウォリスの役人だ」


 小さな瓶をテーブルの上に置いて、ソルミがテーブルからふらふらと立ち上がった。


 その瞳には生気はなく、心からの悲しみに歪んでいた。


「ごめん、シーズ。本当にごめん……」

「あっ、ああ……っ!」


 シーズの息が詰まり、言葉も出なくなってきた。

 苦しい。目の前が暗くなる。


「……ごめん。僕は本当に君を愛している。それだけは本当だ」


 シーズが爪を立ててソルミに手を伸ばす。その手をソルミはしっかりと握った。


「シーズ、許してくれ……」


 ソルミは泣いていた。床に這いつくばり、シーズの手を握りながら。


 シーズの意識が遠ざかる。

 

 あの女もイセルナーレもウォリスも。

 思い通りにならない全てが憎い。


 それがシーズのこれまでだった。


「…………」


 自分がいなくなったあと、オルドン公爵家はどうなるのだろうか。

 わからない。適当な親戚が継ぐのだろうか。


 どうでもいい。

 もう途切れる意識の寸前では。


 ソルミが泣いている。

 

 その腕に爪を立てることもできたが、シーズはそうしなかった。したくなかった。


 代わりに、シーズはソルミの手を握った。離してほしくなかった。ずっと握っていてほしかった。


 最後の力を絞り出し、シーズはうめいた。


「べ、ル……」

「……ああ、わかってるよ。わかってる……うっ、うう……っ」

 

 そのままシーズは事切れた。

 

 シーズの死は、息子が病魔に侵されたことを苦にした自殺だと発表された。


 エミリアがそれを知ったのは、かなり後になってからだった。

ひとつの決着。

そしてついに書き溜めが尽きましたが、まだまだ物語は続けます。お付き合いくだされば幸いです。


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― 新着の感想 ―
二人の仲が進展して甘切ない感じからのシーズで、感情がちょっと大変でした笑 シーズは生きて償う系を想像してたんですけど、サクッと逝ってしまいましたね!とことん国を怒らせてしまったから仕方なさそうですが少…
うーん… 強い精霊術師って怨念抱えて死んだら厄介だから、その辺緩和するための演技? 愛してるのに国の指示で毒盛るなら、自分も飲んで心中しそうな気がしないでもない。
あ、愛してたの?! 暴力ふるわれてたよね??(困惑
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