219.最後の夜
とりあえず杯の話は一旦、そこで終わった。
これ以上はシャレスの力がなければ進まない。
当のシャレスは多忙ゆえにもうアンドリアから移動したのだとか。
なのでなるべく早く、ロダンからコンタクトを取ってもらうことにした。
(その後のことはその後のことね……)
実家に話しても杯を簡単に手放すとは思えない。
そうなった時、シャレスはどこまでやろうとするのか……。
今は考えても仕方がないけれど。
その日、エミリアたちはロダンとずっと一緒に過ごした。
ロダンがフォード向けに本を読んでくれたり、エミリアはルルをぽよぽよしたり。
「ロダンお兄ちゃんの本は難しいねー」
「ふむ……まぁ、たくさんの本を読んでいけばそのうちわかるようになる」
「やっぱりそうなの?」
「ああ、俺もエミリアも本はたくさん読んだものだ」
「お母さんも本読んでるもんねー」
この世界の趣味の範囲は、現代日本に比べればとても狭い。
スマホも自動車もない以上、古典的な趣味に限られる。
その上で、家の中にいてフォードを見ながらできる趣味はごくわずかだ。
読書は必要な要素を満たしてくれる、数少ない趣味である。
(あとは料理とか? 乗馬なんかもイセルナーレの街中じゃあねぇ〜)
ウォリスとイセルナーレを比較した時、大体は効率化されたイセルナーレのほうが安い。
例外は乗馬関係だ。
やはりイセルナーレの王都で馬を飼うのは、かなりデンジャラスにお金が必要だった。
まぁ、ロダンもフォードも趣味が合うのはいいことだ。
昼食から夜までは、アンドリアを見て回る。
学術都市だけであって、博物館や展示会なども豊富だ。
ちょうど古代発掘品展示会がやっていたので、見に行くと……。
「ふるーいイセルナーレの剣? あれが?」
「きゅい」
フォードは展示品の古ぼけてボロボロの剣を見て、首を傾げる。
見た目には完全に錆びて、とても剣には見えない代物だ。
「ふぅん……」
さすがに4歳児のフォードに、昔の品物の良さはまだわからないか。
当然だけれど。
まぁ、何かが心のどこかに残れば儲けものぐらいに考えよう。
そうしてディナーの時間になった。
昨日に比べても歩いたので、お腹はそこそこ減ってきた。
精霊の騒ぎから1日経って、アンドリアの都市はいつも通りに戻りつつある。
エミリアたちは外のお高めのレストランでディナーを食べて、ホテルの部屋に帰ってきた。
そろそろ見慣れてきた部屋の前で、ロダンが軽く手を振る。
「じゃあ、おやすみ」
今日はお互いに全然酔っていないので、ロダンがエミリアの部屋で寝る理由がない。
「……ええ、おやすみ」
寂しいなと思いながら、引き止める理由が見つからなかった。
そこでまぶたを擦るフォードがロダンの裾を引っ張っる。
「えー、今日も一緒に寝ようよー」
「きゅー」
ルルとフォードはロダンと一緒にいたいらしい。
なんというアシストだろうか。
「…………」
この提案にロダンも驚いたようで、エミリアにそっと視線を送る。
彼も嫌なわけじゃない。
それにエミリアは落ち着いて答えた。
「ごめんね、まだいて欲しいみたい」
「……そうか。俺は構わないぞ」
半分、ねむねむモードに入っているフォードが微笑む。
「やったぁー」
「きゅー」
今までは流れというか、そんなので添い寝をしていたのだけど。
ついにアンドリア旅行最終日、シラフで一緒に寝ることになりそうだった。
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