216.3泊4日の3日目
日も昇り、酔いも抜けてエミリアの頭もようやく平常運転になってきた。
(なんだか、とんでもない朝だったような……)
ロダンは昨夜、代理人同士の財産分与を受け取るために出ていった。
夢だったのだろうか。
残るのは……抱きしめられた身体の感覚と記憶だけ。
もちろんエミリアも覚えてはいる。
でもあの時間は夢だった気さえするほど現実離れしていた。
(うーん……)
思い出すほどに恥ずかしい。
ロダンはきっと、さほど時間をかけずに戻ってくるだろう。
(立て直さなくちゃ)
精神を引き締めなければ、とエミリアは自戒する。
その点、ルルはどうだ。
全く普通だった。ぽよぽよ、ふわふわして……。
「きゅっ、きゅい!」
今は朝の体操をしていた。
羽をぐーっと伸ばしたり、ぽよんと縮んだり。
モーニングは部屋まで運んできてもらい、のんびりと食す。
パン、ベーコンプレート、スープ、そしてドリンクとオーソドックスだ。
まずはパンから――持ってみるとちょっと硬めのパンのようだ。
形はトーストに近いが、ラスクのようなさくさくっとした味わいがする。
「クッキーみたい!」
確かに蜂蜜とバニラで風味が足されている。
この世界で菓子パンはまだ珍しいはずだが、さすがの高級ホテルだ。
優しい甘みと小麦の香りが飲酒の翌朝に染みてくる。
「きゅ……」
ルルは大きなベーコンをぺろりと飲み込んでいた。
もっにゅもにゅ。
どれどれとエミリアもベーコンをかじってみる。
やや強めの塩分、そこにちょうどよい熱を帯びた肉。
熟成した旨味が今食べた小麦の味を上書きしてくれる。
「肉の美味しさが出てるわね」
「きゅい!」
スープは玉ねぎと生姜、香辛料を混ぜてややスパイシー。
濃い味のパンとベーコンにぴったり合う。
食後のコーヒー(ルルとフォードはリンゴジュース)を飲み、エミリアの心もかなり落ち着いてきた。
そうして午前の遅め、昼が見えてきた頃にロダンが帰ってきた。
「おかえりなさい、どうだった?」
「ただいま。滞りなく終わりはした」
ロダンは重厚な黒ケースを持っている。
ここに大金が入っているわけだが……すすっと部屋の奥に案内した。
ルルとフォードはベッドの上で本を読んでいる。
強烈な日差しが降り注ぐ窓際で、エミリアはさっそくケースを確認することにした。
「向こうの代理人から、金額的な面は満たしているはずだと」
ケースの鍵が開けられ、エミリアの眼前に貴金属類があらわになる。
中に入っていたのは金の延べ棒、銀のコイン……あとは宝石類。
恐らくルビーやサファイア、ダイヤモンドなど。
どれも本物であれば換金性は十分であろう。
「金額的には――2000万ナーレだったわよね」
「うむ……金銀はともかく、宝石は高騰している。鑑定書もある」
ケースの下の方に羊皮の封筒があり、そこに鑑定書が入っていた。
とはいえ、エミリアに鑑定能力があるわけではない。
目を通すだけしかできないわけだが。
2000万ナーレは日本円で4000万ほどの価値だ。
5年の結婚生活の対価と考えれば、安くはないだろう。
しかし高いとも言えない。
生きている限り金はかかる。
ましてエミリアはもう、故郷であるウォリスに戻る気がなかった。
(……でもこれで、本当に一区切りついたのね)
このお金はもちろんフォードの為に使う。
先進的なイセルナーレでも、大学進学は簡単ではない。
飛び抜けて優秀か裕福かのどちらかでないといけない。
でもこのお金があれば、裕福の条件は満たせるはずだ。
ロダンがゆっくりと口を開く。
「このお金についてあとは君次第だが、慎重に考えることを勧める。リスク分散を怠るなよ」
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