215.想いを重ねて
なぜこんなことになったのか。
多分、様々な理由が積み重なったからだろう。
ひとつは間違いなくもろもろ疲れていた。魔力的にも精神的にも(これらは同じようで違う)
あとは杯の影響もあったに違いない。
身体の中に甘い熱が入り込んで、思ったよりも酔いが回ったのだ。
(……にしても)
アンドリア行きの列車、昨夜……とこれでロダンのそばで寝るのは三回目だった。
正直なところ、全然嫌ではなかった。
むしろ――心の声は喜んでいた。
彼のそばにずっといられて、一人占めできている感覚を持てるから。
もちろん、そんな感覚は幻だ。
エミリアとロダンはそんな関係ではない。少なくとも、一緒にそばで何度も添い寝するような仲ではない。
「…………」
ロダンは薄く息をしながら寝ている。
エミリアはその艷やかな頬に指をそーっと伸ばした。
恐らくどこの世界でも、人の顔はむやみに触らないものだ。
家族以外で顔に触るのは美容師くらいである。
ふに。
エミリアの人差し指の腹が、ロダンの頬にくっついた。
(すべすべねー……女の人の肌みたい)
エミリアは自分の頬をちょっとつまんでみる。
……ふに。
相応のケアはしているし、元の素材も一級品である。
ただ、自分と比べてもロダンの肌は潤いがあって、きめ細かい。
(特別なケアをしてるのかなぁ……。肌と魔力は関係ないはずだし)
普通なら気にもしないことが、起きたての頭の中に疑問として浮かんでくる。
「んっ、むぅ……」
頬を触りすぎたのか。ロダンの顔に力が入り、目をぱちりと開けた。
「おはよ」
「……おはよう」
ロダンが困惑しながら、エミリアの指に視線を移した。
「なんだ、この指は」
「触り心地を確かめたくなって」
ふにふに。
言いながら、エミリアは続けてロダンの頬を優しく突っつく。
ロダンはされるがまま、じーっとエミリアの顔と指を見つめていた。
エミリアがふっと微笑む。
「嫌がらないのね」
「……俺の頬を触りたくなる理由はよくわからんが、嫌ではない」
「へぇー……そうなんだ」
自分でも甘い声が出ていると思う。
それでもロダンと戯れるのを止められなかった。
「君は……」
「うん?」
「俺にだけ、こうしてるのか」
一瞬、ロダンが恥ずかしさから目をそらしたように見えた。
言葉にされると恥ずかしいような、嬉しいような。
「そうだよ」
答えて、身体を少し寄せる。
エミリアもロダンも容易に近寄れない事情があった。
男の人に全部寄りかかるのは、エミリアにとってまだ少し難しい。
ロダンはロダンで、きっと母のことがあるから手を伸ばせないのだろう。
「…………」
「…………」
沈黙があって、見つめ合う。
ゆっくりとロダンの腕が閉じて、エミリアの身体が抱きしめられる。
まだロダンも頭が麻痺して、酔いが残っているのかもしれない。
いつもはひんやりと感じるはずの彼の魔力が熱を帯びて、エミリアの心を燃やす。
エミリアはロダンに抱かれながら、聞いた。
「……私のこと、好き?」
「そんなもんじゃ足りない。愛している」
はっきりとロダンの唇が動く。
その瞬間、エミリアは強く満たされた気がした。
「今日はずいぶんとはっきり言うのね」
「夢にはしたくなかった」
それはエミリアも同じだった。
色々な要因が重なった奇跡を掴み損ねたくなかったのだ。
「……私も同じ」
ただ、そうは言っても簡単に結ばれるわけではない。
エミリアはウォリスの人間で、それはどうしようもないことだ。
ロダンも全てが思い通りになるほど、王都守護騎士団団長という地位は軽くないだろう。
それでも……エミリアは嬉しかった。
はにかみながら顔を横にそっと向けると――ルルの寝息が途切れていることに気付く。
「もしかして、起きてる?」
「……きゅ」
少ししてルルが枕に頭を埋めたまま、反応する。
まぁいいか、とエミリアは思う。
ふたりの関係を一番最初に知るべきは、ルルとフォードであるべきなのだから。
ついにここまできちんと描けたかなと思います。
とはいえ、まだ結ばれるまでには時間がかかるかもですが……!
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