213.裏通りの店
精霊騒ぎの影響で、街の北側のレストランは相当数が臨時休業を余儀なくされていた。
それにショックを受けたのはルルだ。
「きゅい!?」
暗がりのアンドリアの街中で、ルルもぺしょぺしょである。
「きゅ〜〜……」
さっき釣り堀で結構食べた気がするが、もうルルは次のご飯を待っているのだ。
「ここから近くにいいレストランはないかしら……」
「ふむ……」
正直、エミリアもかなりの空腹である。お腹に入るのなら何でも良い。
いくつかの通りを過ぎた時、ロダンがふと足を止めた。
そしてロダンは裏通りを覗き込む――そこには何軒かのバー・レストランが連なって開店していた。
「よく見つけたわね」
「この通りから人の気配がしたからな」
フォードがまじまじと裏通りを見つめる。
「ふぇー……全然わからなかったぁ……」
「きゅー……」
エミリアも魔力のない人の気配をここまで察知することはできない。
ロダンが街の治安を守る騎士だからだろうか。
(雰囲気的には……まぁ、夜遅いというわけでもないし)
フォードと一緒に入るのに問題なければ、食事の内容は問わない。
「今、空いてそうなのは奥の店だな」
「じゃあ、ちょっと行ってみましょうか」
ルルを見ると「きゅーきゅるるる……」とお腹の鳴るような音を器用に再現していた。
可愛い。お腹が空いてますアピールだ(そんな空腹なわけは多分ない)
通りの奥の店は落ち着いた、かなり古風なバーだった。
「……若干クラシックな店構えだな」
ロダンからするとそうだろうが、ウォリス育ちのエミリアにとってはさほど古くもない。
「ここでいいんじゃない?」
ということで目についた裏通りのレストランへと入る。
店内にはマスターとウェイトレスが暇そうにしており、他に客はいなかった。
「いらっしゃい。よく来たね」
マスターはピンとした白ヒゲのお爺さんだ。ウェイトレスは……マスターの孫だろうか、10代後半でかなり年齢が離れている。
「あや!? どうぞ、奥が個室になってますのでー!」
ウェイトレスはにこにこ顔でエミリアたちを奥に案内した。
ロダン、エミリア、フォード、ルルの4人だとかなり狭めの個室だ。
テーブルに長ソファーの個室で、渋めの木目が印象的である。
「よいしょっと」
フォードが何の気にもなしに、ルル入りバックを奥へとセットする。
「きゅー」
そしてそのままルルの手前にフォードが座り――反対側にエミリアとロダンが並んで座ることになった。
「ウチは創作料理がメインになってましてー、あとはアルコール類も取り揃えています!」
まずはお腹にすぐモノを入れたい……。
というわけで比較的すぐできる料理をお任せで何品か頼む。
ついでにアルコールも。昨日に引き続き、今夜も無性に飲みたい気分だった。
ロダンもいるし、大丈夫だろう……うん。
「はーい、まずは川魚の漬けでーす」
ウェイトレスが小皿を持ってきた。
小皿にはとろっと液状化して濃い茶色、そこに薄くスライスされた白身が絡んで盛られている。
どことなく塩辛っぽい。
「えーと、何の川魚かしら?」
「スイートフィッシュです。焼いても美味しい魚ですが、内臓と身で漬けましたー!」
塩辛だった。
しかもスイートフィッシュは日本だと鮎――つまりこれは、うるかだ。
(まさか日本でも名産に属するおつまみが出てくるなんて……!)
感動しながら見ていると、お酒も運ばれてくる。
スライスレモンが刺さった、オレンジ風のカクテルだ。
「きゅい!」
ルルがさっそくフォークでうるかをすくって、くちばしに運ぶ……。
「きゅー!!」
ぽにぽにぽに。ルルが喜びで上下にたぷたぷする。
エミリアも甘めのカクテルに口をつけると、おつまみを食べたくなった。
(まぁ、ちょっとくらいはね?)
旅先でもあるし、少しは楽しんでもいいはずだ。
ロダンも白ワインを飲むつもりみたいだし。
ということで、ちょっと早めのディナーをエミリアたちは堪能することにした。
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!







