212.北岸にて
「それは……本当か?」
「彼の言葉だけではありますが。しかしレッサムの名前なども出してきました」
ソルミはあの場で何人かの墓堀人の名前を言った。
その中にはロダンも知らない人間も知る人間もいた。
「国外の協力者というわけか」
「恐らくは。ウォリスは古い国です。墓堀人が興味を持ち、根を張っても不思議はありません」
「イセルナーレ内の墓堀人はあらかた目星をつけたが、そうか……」
シャレスが行った墓堀人の浄化作戦について、ロダンは後から聞いた話しか知らない。
それでもシャレスの行動は相当に苛烈だったという。
公職に残れた人間はわずかで、多くが処断された。
もっとも、逃げ出して捕まっていない人間も相当数いるということだが……。
「国外について、どうしても二の次にせざるを得なかった。資料のほとんども破棄され、見過ごすしかなかったが……今になって手掛かりが手中に入るとはな」
「ただ、私見を述べれば墓堀人そのものではないと思います」
ソルミの魔術師としての技量はかなりお粗末だ。
最大限に評価しても中の下ほど。
マルテやレッサムとは魔術師としての水準が全く異なる。
シャレスは顎を撫で、ロダンを見上げた。
「その点について、確かに墓堀人が他国人を重用するとは思えん。……いいだろう、彼と話してみよう。君も同席したまえ」
夕方、アンドリアの北端でビーバーの精霊は川へと帰ろうとしていた。
「むぅ、むー……」
川に身体を沈めたビーバーは本当に申し訳なさそうだ。
「きゅい!」
気にしないで、とルルは言っている。
そのままルルはビーバーの鼻先を撫で撫でした。
「きゅー!」
「僕たちも……いいの?」
「きゅっー!」
ルルに言われ、フォードがビーバーの鼻先に手をすっと伸ばす。
巨大なビーバーのつぶらな黒い瞳。フォードは臆することなく、ぺたりとビーバーの鼻先から顔に触れた。
「ごわってしてるー」
「んぅ……」
「お母さんも触れてみたら?」
「そうね、じゃあ……」
ビーバーの触り心地というのは、どうなのだろうか。
エミリアがビーバーの顔に触る。
……ぬぬぬっとしてて、タオルみたいな感触のように思った。
(ふわふわじゃないけど、これはこれでいいわね)
毛はかなり暖かいので、冬だと天然のコートにもなるのだろう。
こうしてビーバーは恐縮しながらアンドリアの結界の外、寝床の天然ダムへと帰っていった。
ビーバーが見えなくなるまで見送ると、エミリアの口から息が漏れた。
「ふぅ……」
「お母さん……疲れた?」
「うん、ちょっとね。今日は色々とあったから」
フォードがルルを抱えて、背中のバックに収納した。
「きゅー」
「そういう時はたくさん食べるんだって」
それは本当にルルの言う通りだ。
今のエミリアはたくさん食べて、飲みたかった。
鮮やかな夕陽が地平線の向こうに消えようとしている。
もうディナーを食べてもおかしくのない時間だ。
ふと、背後に人の気配を感じる。
「手間をかけさせたな」
「ロダン……! もう、その……大丈夫なの?」
エミリアが問うと、ロダンは頷いた。
「ああ、全て引き継いだ。エミリア、本当に助かった」
「気にしないで。元はと言えば……」
近くにフォードがいるので、言葉を続けられない。
「気にするな。予想外のアクシデントというのは常にあるものだ」
それからロダンから小声で聞かされたが、財産分与は滞りなく行われるらしい。
シャレスの配下も動くとかで、より厳格に行われるのだとか。
「……時間は深夜になりそうだがな。向こうの代理人は捕捉済みだ」
エミリアはあの精霊魔術師のことをしっかりと聞いたわけではなかった。
でもロダンの口振りでは、きっと大丈夫なのだろう。
「なら、いいけれど……」
「それよりも君が心配だ」
じっと至近距離でロダンから見つめられるエミリア。
体調的に問題はない……ここまで魔術を使うと、本当に空腹になるということ以外には。
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