211.留置所
ソルミは仮面を剥がされ、警察の留置所に移送されることになった。
ここから先はアンドリア警察の領分だ。とはいえ、ある程度事件が見えるまでロダンは同席するつもりだった。
ソルミは取り調べに黙秘を貫いている。
ガラス張りの取調室の隣室で、ロダンはじっとソルミを観察する。
彼は若干、落ち着きをなくしているが……冷静だ。
オルドン公爵家の一員ということが、彼にそうさせているのだろう。
「まさか、こんなことが起こっているとはな」
ロダンの隣に公務先から呼び出されたシャレスが到着した。
警察官僚もロダンも含めて、シャレスに礼をする。
「お忙しいとは思いましたが、呼びかけをさせて頂きました」
「構わん。話を聞いた時は本当かと思ったが……」
シャレスの眉間にはシワが深く刻まれている。
ロダンは事件の全容について、おおよその予測を立てていた。
もうひとりの取り逃した精霊魔術師はシーズではないだろうか。
それ以外にソルミが共にこんなことをする人間がいるとは思えない。
動機は財産分与を台無しにするか、エミリアを狙ったか……。
ロダンの仮説にシャレスも首肯する。
「君の見解に同意しよう。しかし難しい……」
「ビーバーの精霊に、彼は精霊魔術を行使していませんからね」
「うむ……」
精霊を使って暴れさせた場合、これは間違いなく重罪だ。
だが、今回のように補助にとどまっている場合は微妙である。
シャレスが人払いをして、シャレスとロダンだけがこじんまりとした部屋に残った。
「エミリアの精霊魔術を妨害したのも――公務執行妨害とは言えません。彼女は公務員ではありませんからね」
「市中騒乱罪を適用しようにも、彼が精霊に命じて破壊行為をさせたわけでもない」
「有罪に持ち込むにしても、裁判は長引くかと」
「法務官の君が言うのなら、そうなる可能性が高いのだろうな」
イセルナーレは三審制を採用している。今回のようなケースはほとんど前例がなく、どのような帰結になるかは不明だ。
「ウォリスからの横槍を考えれば、適当なところで釈放ということになるだろう」
「……それでよろしいので?」
「いいわけなかろうが」
シャレスが吐き捨てた。
「イセルナーレの市内で精霊魔術だぞ。世が世なら宣戦布告にも等しい行為だ。今回は運良く人身被害がなかっただけ……落とし前は必ずつけさせる」
外務大臣でもあるシャレスは表と裏の手管に長けている。
今回のようなケースの場合、裏の手を使うことになるのだろう。
それがどのようなものであるか、ロダンのあずかり知らぬことであるが。
「あいつは適当なところで釈放しろ。彼のことは離婚調停の時に調査したが……小物だ。本命はオルドン公爵だ」
「わかりました。一晩、牢に入れて翌朝ウォリスへと送還します」
「普通なら金銭で済ませても良いところだが――」
シャレスの声が一段、低くなる。
「エミリア嬢は遺産抹消の切り札だ。余計な要素はこの際、徹底的に排除するべきだろう。彼女は反対するか?」
「それはないでしょう」
「なら遠慮はいらんな。オルドン公爵は裏から処す」
「御意に」
そこでロダンはソルミから聞かされた、過去のとある秘密について……シャレスに伝える良い機会だと思った。
「もうひとつ、ソルミからひとつの話を聞きました」
「……ふむ?」
「私は証拠を見たわけではありませんが――ソルミはかつて墓堀人だったと、そう自称しています」
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