199.ふたつの魚
「やったぁー! おっきいー!」
「きゅい〜!」
全体的に黒ずんだ身体を持つのがクロダイだ。
クロダイを釣り上げたふたりは大きな魚に喜ぶ。
しかしそこで釣りは終わりではない。
釣られた魚はあらん限りの力を振り絞り、暴れる。
クロダイもまさに40センチの身体を揺らし、湖に戻ろうとしていた。
そのサイズはルルの全高よりも大きい……。
「おわぁっ!? ど、どーしよー!」
巨大な魚を抱えて慌てるフォード。
そこでルルの瞳が光った。
「……きゅっ!」
ぺちー!
ルルの羽アタックがクロダイの脳天に命中する。
ふわふわペンギンとはいえ、ルルは精霊。必殺の一撃にクロダイは即座にノックアウトされた。
「おとなしくなった……」
「きゅい……」
これも自然の摂理……とルルが渋くてハードボイルドな目をしている。
その間になんとかエミリアも魚を釣り上げることができた。
「やったー……! ふぅ……」
しかし釣ったはいいが、見たことのない30センチの魚だった。
全体的に黄色を帯びて、黒の横帯が数本走っている。棘も鋭い魚だ。
(知らない魚ね……)
でも釣り堀で釣れるからには食べられるはずだ。そう信じよう。
「きゅっ……!」
謎の魚もルルが脳天チョップで締める。
「よし! さっそく食べましょうか」
「うぁーい! そうしよー!」
「きゅー!」
ふたつの魚を持って、屋台へと向かう。
どの屋台も同じような感じなので、とりあえず近くの屋台へ。
気の良さそうなおっさんが店主の屋台に魚を持ち込む。
屋台ではあるが、店主の後ろにも数人の若い料理人が作業していた。
「へい、いらっしゃい!」
「このお魚を料理してもらえるかしら」
「もちろんでさ。おおっ、クロダイとシマイサキですね。こりゃ大物だ」
エミリアの釣ったほうの魚はシマイサキというらしい。
縞が入っているので、見た目通りの名前だった。
「クロダイは警戒心が強い魚なんですがね、お嬢さんがたは釣りが上手い」
「だって、ルルー!」
「きゅー!」
褒められて悪い気はしない。
エミリアは店主にふたつの魚を渡す。
「どちらも珍しい魚よね?」
「市中には出回らないっすね。でも美味しい魚ですよ」
ここでは魚をさばくのは無料で、料理をお願いするならまた別料金だ。
もちろん、この場で食べるのだが……食べ方にも色々とある。
エミリアがうーんと考えていると店主が助け舟を出してくれる。
「ここでクロダイを食べるなら、やっぱり生ですねぇ。お嬢さんに抵抗がないなら、ソイソースが合いますよ」
「あら、お醤油がここにあるの?」
「東西の調味料が揃ってますんで」
さすが、そこそこの入場料を払うだけはある。
色々な趣味嗜好に対応しているわけだ。
「じゃあ、クロダイはお刺身にする?」
「うん! お刺身好き!」
「きゅー!」
余った部位は適当に焼いてもらうことにして、クロダイのメインはお刺身に決まった。
「で、シマイサキは……」
「こいつは皮もいいんだ。湯に通して、皮ごと身を……」
「きゅ……」
ルルのくちばしから、ほのかによだれが出ていた。
「味付けはお好みで。醤油でもいいし生姜や酢、唐辛子なんかも捨てがたいですぜ」
「じゃあ、それにお願いしようかしら」
「あいよ! 毎度あり!」
お金を支払い、料理を見守る。
店主は驚異の手さばきで魚を解体していった。
若い料理人たちは助手として、鍋や湯を用意している。
「きゅっ、きゅっ、きゅ〜」
ルルが揺れながら料理の行く末を見守る。
「楽しみだね、ルル」
「きゅ〜〜」
料理法自体は時間のかかるものではない。
10分ほどして、ふたつの木の皿に魚が盛り付けられた。
「はいよ、クロダイのお刺身と焼き。シマイサキの皮湯通しだ!」
たっぷりのクロダイの白身と香ばしい焼き魚の匂い。
それに皮付きでぷりっとしたシマイサキ……ついにランチの時間がやってきたのだ。
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