198.釣り本番
「きゅ……」
ルルが寂しそうな目でペースト肉団子を見つめる。
(くっ、可愛い……! だけど、心を鬼にしないと!)
「す、すぐ魚を釣ってランチにしましょう!」
「きゅい……!」
「もちろん約束よ!」
エミリアが気合いを入れ直し、釣り竿を手に取る。
もし釣れなければルルがペースト肉をくちばしに放り込みかねない。
もちろん精霊だし、ルルならこのペースト肉を食べても大丈夫なのだろうが……。
エミリアは肉団子を針の先につける。
フォードにも手を添えながら、ちょちょいと……。
これで餌がついた。
釣り竿は青色で、ごくシンプルなデザインだ。
時代が時代なのでちゃんとリールも付いている。
あとは耐久性を増す、簡単なルーンが施されていた。
「よし、これで釣りができるわ!」
ぐっと意気込むエミリアに、フォードが尋ねる。
「えーと……これで釣り竿を振るんだよね」
「きゅい」
芝生に降り立ち、ぽふぽふ歩くルルが釣り竿を所望する。
「ルル、やってみる?」
「きゅー」
釣り竿を振るくらいなら、まぁ…ルルへ釣り竿を渡す。
すっすっと。軽く手応えを確かめたルルが羽を振るう。
「きゅー!」
ちゃぽん……と湖の中へ針先が吸い込まれる。
「おおー……ぱちぱち」
「きゅう!」
拍手するフォードにルルが胸を張る。あとは魚が釣れるのを待つだけだ。
「きゅ」
「僕も一緒に竿を? うん、わかった」
ルルとフォードはふたりでひとつの竿を持つ。
エミリアはふたりのそばで肉団子をつけ、竿を振って……湖に投下した。
ぴしっと釣り竿を持つエミリアにフォードが目を丸くする。
「お母さん、うまいね!」
「ふふっ、経験は少しあるからね」
ウォリスにおいて、川釣りは狩猟と並んでメジャーな貴族趣味のひとつである。
もっとも釣り堀のようなものはウォリスでは多くない。
ウォリスではとにかく川釣りであり、その中でもフライフィッシングが別格に重視されているからだ。
『自然を読み、川と対話しろ』
エミリアも貴族学院でそんなことを習い、釣りを少しやった。
結婚してからは遠ざかったが、とりあえず竿振りは忘れてない。
「これでお魚が来るのを待つんだよね?」
「きゅっきゅ」
ルルがふにふにと頷く。
さきほど魚の放流があったので、きっとすぐ釣れるはず……。
そこでフォードが叫んだ。
「あっ! 動いてるー!」
「きゅー!」
見るとふたりの竿がぐいっとしなり、糸が引っ張られていた。
エミリアが自分の竿を投げ出し、フォードのほうへ行こうとするが……
「あっ、うそ!? 私のほうも!」
なんと同じタイミングでエミリアの竿にも当たりが来てしまった。
こうなると竿を投げ出すわけにもいかず、全員がパニクってしまう。
「えー! あー、どうするの?!」
「ま、まいて! この部分を!」
エミリアはリールのハンドルを握り、慌てながら巻いていく。
だが巻くのに対して、魚の抵抗が強い。簡単に上げられない。
(重い! 大物かも……!)
考えてみると日本円で3万円もするのだ。
小魚では割りに合わない。
きっとそこそこのサイズの魚も放流されているはずで……多分、同時にヒットした魚もそうなのだろう。
「巻くんだね、んんっ! おもいー!
」
「きゅいっ」
ルルがハンドルに羽を貸し、ぐるぐると猛烈に回し始める。
「きゅいきゅいきゅいー!」
「すごいすごい! このまま巻くよー!」
フォードとルルが力を合わせ、リールを巻く。
手を貸そうとしたエミリアも、一度立ち止まる。
強烈にしなる竿から――ざばぁっと魚の姿が水面に上がってきた。
「もうちょっと! あと少しよ!」
「うん、ルル……頑張ろう!」
「きゅーい!」
ぐぐっとリールを巻き、ついに魚を釣り上げる。
それは40センチにもなる、黒光りするクロダイ(チヌ)だった。
クロダイは淡水でも生きていける大型の魚です。
釣り堀の魚として成長するのには時間がかかりますが……まぁ、料金が高いので。
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