197.釣り堀
ということで、エミリアたちはホテルから市内へと向かった。
初めて歩く街だが、標識なり道の作り方なり待ち合い馬車のルールは王都と同じだ。
イセルナーレのこういう几帳面なところは旅行ではありがたい。
ほとんど迷うことなく、エミリアたちは数十分かけてアンドリアの郊外に到着した。
「おー! きれいー!」
蛇行する狭い川、小さな湖、背の低い茂み。
ゆったりと芝生が敷き詰められた釣り人用の空間……。
ちなみにここにいけすはない。
目の前の川と湖が釣り場なのだ。
(これって釣り堀っていうのかしら? そこはイセルナーレの法的にそうだってことでしょうけど)
穏やかで騒がしくなく、それでいてアクティビティが楽しめる。
フォードとルルもさっそく、間近で見る川と湖にテンションが高くなっていた。
「海とはまたなんか、違うね」
「ここは全部、人工的なんだって」
「へぇ、すっごーい。川を曲げたの?」
フォードとルルが腕をぐいーんとする。
「ぐいーんてね、そうそう」
交差する川の水を引き込み、巨大な公園と釣り堀をセットにしたのがここ『アンドリア川釣りセンター』だ。
平日は空いているだろうと思ったが、狙い通りだった。
さすがにそこまで混んではいない。
ここは手ぶらで来てオッケー……まぁ、お金はかかるのだが。
しかし流動的なスケジュールだったエミリアにはありがたい。
釣り竿をふたり分、それに諸々を借りて合計15000ナーレ。
3万円ほどかかった。
ライフジャケットを着用し、エミリアたちは釣り場に向かう。
釣り場の横には『魚、さばきます』
と書かれた屋台がいくつか並んでいる。
すでに先着の釣り人が屋台の前で、焼き魚にしてもらっていた。
スパイスをかけたのか、香ばしいピリッとした匂いが漂ってくる。
「うわぁ、おいしそう〜」
「きゅっ……!」
ルルが絶対に釣るという決意の眼差しになっていた。
(まぁ、絶対に釣れるわよね)
屋台のさらにずっと奥、ルルとフォードの視線から外れたところで釣り堀の従業員がどぼどぼと箱から魚を放流している。
エミリアも釣りは初心者だ。
こういった形式のほうが安心できた。
湖沿いまでちょっとだけ歩き、そこで釣りを開始する。
「釣りってやったことないんだよね、どうやるの?」
ご丁寧なことに、ここには初心者用パンフレットもある。
パンフレットを片手にふむふむとエミリアが頷いた。
「えーと……まずは餌作りね。こっちの袋に……」
皮袋を開けると、そこには釣り用のペースト肉が入っていた。
(うーん、魚屋さんの臭いね)
強烈な魚の臭いが立ち込めるが、フォードは平気な顔をしていた。
エミリアも家で魚をさばいているし、癖の強い食べ物もフォードは積極的に食べるから大丈夫なのだろう。
ちなみにルルは……餌用のペースト肉に目を奪われていた。
「どろんこみたい」
「魚の身を潰したりするとこうなるのよ」
「へぁー……」
「きゅい」
「エビも入ってるって? くんくん……うん、そうかも」
ペースト肉の正体は多分、安めの魚肉や甲殻類のブレンドだろう。
この臭気で魚を呼び寄せて、食いつかせるのだ。
「で、これを小さく丸めて……」
ぬちゃりとした手触りを感じながら、エミリアがペースト肉を丸める。
「こんな感じかな?」
「うわぁ、楽しそう!」
フォードもエミリアに続いて、やってみる。
こねこね、ぎゅー。
「できた!」
フォードが小さい肉団子を掲げる。初めてだが、良さげな感じだ。
「ルルもやってみて!」
「きゅい!」
フォードからペースト肉を渡され、ルルがこねこねこねする。可愛い。
「きゅうん!」
じゃんと肉団子を掲げるルル。
ちゃんと小さい肉団子ができている。
「……きゅ!」
衝動に負けたルルが肉団子をあーんと食べようとして――エミリアが羽を持って制止する。
正直、こうなる気はちょっとしていた。
「だ、だめよ! これは食べちゃダメだから!」
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