196.次の予定
船で川を戻り、エレベーターのあるところにまで戻る。
なんだかシャレスがそわそわしているような気がする。
時間を気にしているようだとエミリアは察した。
「シャレス殿はこれから?」
「悪いが公務だ。アンドリアの近くだからまだマシだが……」
そこでシャレスがケースに目を向ける。ケースは今、ロダンが持っていた。
「申し訳ないが人と会うので、それは持ってゆけぬ。ロダン、任せたぞ」
「はい、お任せを」
しっかりとケースを両腕に持ち、ロダンが宣言する。
ロダンの仕事振りにはシャレスも全幅の信頼を置いているようだ。
あえてそれ以上、念押しはしない。
「エミリア殿、その杯のルーンを消去するのは進めてもらって構わない……。むしろ進めてほしい」
「問題ありません。アンドリアだけで全て終わらせるのは難しいかもですが」
「他の人に知らせないならば、持ち帰っても一向に良い。というより、今の状況は遥かにスムーズだ」
シャレスが苦笑いをする。
「もしかして、今回は成果が出ないかもと思っていた。何回も通うことになるやもと。おっと、気を悪くせんでくれよ」
「いえ――今回は幸運でした」
それはエミリアの本心だった。
エミリアがマルテの記憶を読んでいたから、上手くいっただけだ。
あの知識を応用できた。
もし全然違う仕組みだったら相当な苦戦を強いられていただろう。
模造品といえどもそれほどにルーンのレベルは高いのだ。
「……うむ、とりあえず今日のことはまた明日話そう。明日も時間は取れるだろうからな。ふぅ……」
肩の荷が軽くなったとシャレスは言わんばかりだった。
それはまぁ、エミリアも同じだが。
重大な約束のうちのひとつは成果を出せた。喜ばしいことだ。
エレベーターを呼び、一緒に乗り込む。
シャレスとは1階で別れ、エミリアたちはそのまま上へと昇っていった。
ホテルのエントランスに戻って、エミリアはロダンを振り返る。
「さて、俺は少しケースを調べたら少し出るぞ」
「私がいたほうがいい?」
「大丈夫だ。ケースはそれなりに頑丈だが、年季が入っている。安全性をもっと確かめ、鍵も増やしたい……それだけのことだ」
どうやらロダンは杯のケースに万全を期したいらしい。真面目なことだ。
「君のほうこそ、魔力をかなり使ったのでは?」
「うーん、まぁね……でも魔術を使わずにいれば大丈夫かな」
軽い倦怠感はある。
とはいえまだ余力はあるし、ロダンに甘えるほどではない。
「そうか。じゃあ、夕方に合流で問題なさそうか?」
夕方――夜には財産分与がある。
エミリアは同席しないが、渡される品物の確認は早急にしないといけない。
だから現場近くでエミリアも待機しなければ。
しかし何の問題もないはずだ。
品物の受け渡しだけで、その品物がどうというのはまた別の話。
「ええ、そうしましょう」
ロダンが屈み、フォードの髪を撫でる。
「じゃあ、また後で。合流したら昨日借りた本を一緒に読もう」
「うん! またね!」
「ルルもありがとう。また夕方」
ルルに対しては顎の下を撫でるロダン。なかなかに慧眼だ。
「きゅっ!」
ということでロダンとは別れて、エミリアとフォード、ルルだけになった。
思ったよりも時間ができた。
これならイベントを入れても大丈夫だろう。
「さーて、昼食はどうしようか?」
「きゅー?」
お勧めはなんでしょうか。
ルルがきらんと瞳を輝かせて首を傾げる。
「うーん、そうね……」
エミリアがホテルのエントランスから眺めの良いアンドリアを見下ろす。
秋の日差しを受けながら、交差する川。
遠くの川を航行する巨大な観覧船には、きっと数百人乗っていることだろう。
「川魚の料理かしら?」
フォードの年齢的に人混みはあまり行きたくはない。
落ち着いた子ではあるけれど、やはり心配なのだ。
で、エミリアはぴったりな場所をすでに見つけていた。
「釣り堀よ!」
アンドリアには、イセルナーレでも有数に巨大な陸上釣り堀があるのだ。
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!







