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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
3-3 モーガンの杯

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195/308

195.川から陸へ

 杯の核となるルーンはとりあえず破壊できた。

 しかしまだ全体にルーンは残っている。


(消せたのは全体の1割くらいかしら……?)


 ここまでで、もう作業から1時間ほどが経っている。

 全ての作業を今日、ここだけで完結するのは不可能だろう。


 今、杯はロダンが持っている。

 彼もくるくると回して――。


「大したものだ。魔力の集積とセーフティー部分を集中的に消し去ったのか」

「まぁね、でもまだ作業は終わらないけれど……」


 エミリアの意を汲んだロダンがシャレスへ提案する。


「どうでしょうか。とりあえずこの場での作業はこれくらいで。残りはアンドリアでなくても行えるかと思いますが」

「うむ、そうだな……」


 シャレスが地下の河を眺める。


「この場所に安置したのは、いざという時は水に含まれる魔力を当てにしてのことだった。海や大河に含まれる魔力はモーガンの遺産も劣化させるはずと思ってな……」


 大気よりも水のほうがルーンを速く劣化させる。

 もっともそれは諸刃の剣だ。


 これほど複雑なルーンを無思慮に劣化させるのは恐ろしい。

 爆発、機能の暴走――何が起こるかわからない。


「……まぁ、これは今となっては言い訳に過ぎんがね。ここなら何が起きても安心ではある」


 シャレスが首を振った。

 今の彼は理解している。あの嵐の杖は海水に浸かってもまだ効果を発揮していた。


 ここに安置したのは王都で働くシャレスにとって、ちょうど良かったからだ。


(たまの確認に遠くなく、普段は近すぎもしない……)


 シャレスの恐怖と義務感の釣り合いが取れるのが、ここだったのだろう。


 ロダンが天井を見上げる。そこには鉄の錆びた板とルーンの気配がした。


「確かに、この地点は相当頑丈なようですね」

「元の領主の隠れ家だからな。街が吹き飛ぶ火薬でも耐えられる。ここより堅牢なのは……王宮そのものか、最新鋭の要塞くらいだ。杯の魔力が仮に暴走しても、軽い揺れしか起こらんだろう」


 さすがに諸々の危険は織り込んでここに杯を安置していたらしい。


 その辺りの計算はさすがだった。


「ともあれ、安置する理由の大部分はなくなった。残りの作業はここでやる必要がないのはその通りだ」


 ということで杯を箱に入れて持ち帰ることになった。


「ふぅ……ルルもお疲れ様。ありがとうね」

「きゅい!」


 ルルがたぷんと胸を張った。

 焼肉分は働きました、と主張している。


 エミリアはルルを抱えて頭からちょっと吸い……帰り支度をする。


 もちろん油断は禁物だ。

 中核となるルーンは破壊したが、多くのルーンはまだ残っている。

 盗まれでもしたら目も当てられない。


「んー?」


 ここまで乗ってきた船に乗り込もう、としたその時。

 フォードが川の水に手をくぐらせる。


「どうしたの?」

「きゅい?」

「うーん、なんだろう……水がちょっと変わったような?」


 言われてエミリアも水中に手のひらを入れてみる。

 

 清涼な水の中にかすかに、脈打つ魔力が感じられた。


 自然の魔力ではない。

 精霊の持つ魔力だ。大気や水に魔力を残す精霊もたまにいる。


「ああ、これは精霊の気配ね」

「えっ!? 近くにいるの?」

「うーん、どうかしら……? 多分、かなり遠いかな」


 本当にかすかな痕跡なのに、フォードはよく気が付いた。

 前の件にしてもやはりフォードの精霊探知能力はずば抜けている。


 舵の前に立つシャレスがエミリアたちに言う。


「この近くならビーバーの精霊かもしれんな。あの子はよく近くの川で泳いだり、伐採をしたりする」

「へぇー! もしかしてあの子かなぁ?」

「きゅーい」

「また会えるといいねー」


 そこでシャレスがロダンに囁いた。


「大した感受性だ。私は全然わからなかったが、君は気付いたかね」

「いいえ。精霊について、あの子には天賦の才があるようです」

「まさに魔術師の家系というべきか」

 

 船が発進し、来た川を戻っていく。

 エミリアの仕事の第一段階はこうして無事に終わったのであった。

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>ルルがたぷんと胸を張った。 ん?『たぷん』?(汗)
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