186.地下の河を進んで
地下はオレンジ色の魔力灯こそあるものの、広さに比べると不十分だ。
エミリアはフォードと手を繋ぎながら先導するシャレスについていく。
道は無骨な石の道であり、古さを感じさせる。
アンドリアの街の持つ新しさにはまったくそぐわない。
エレベーターが見えなくなると、鉄板の張り巡らされた壁だけが近代的な要素であった。
道はアンドリアという都市の地下を走っているようだ。
数分歩くと、ロダンがふむと顔を向ける。
「水が流れているようだ」
エミリアの耳には聞こえなかったが、歩きながら意識を傾けると確かに聞こえる。
かすかなせせらぎ、流れる水の音。
エミリアが先を歩くシャレスに質問した。
「ここには川の水も流れているんですか?」
「うむ、そのように聞いている。アンドリアの川は古来より数え切れないほど洪水を起こして……その都度、川の流れを変えるために様々な工事がなされた。この地下を流れる水も同じだ」
ロダンがわずかに壁へ目を向けるのをエミリアは見逃さなかった。
穴が空き、焼け焦げた銃痕が壁に刻まれている。
エミリアがそっとロダンにささやく。
「……これって」
「心配するな。あの銃痕は随分と古い……俺たちの親が生まれるより前の代物だ」
まもなく、エミリアたちは地下の川にでくわした。
ぼうっとオレンジ色に照らされた川が幻想的である。
水は透明感があって深くはない。
ふと川を覗き込むと、水草に小魚が隠れるのが見えた。
「うわー……なんだか不思議だね。ここって街の下でしょ?」
「きゅい」
川岸からちょっと回り込むと、小型蒸気船が置かれていた。
5人乗りくらいだろうか。ボートにかなり近い。
「これで向こう岸まで……?」
「その通りだ。さほどの距離はないがな」
船は全員で乗ると結構狭い。
フォードとルルがロダン並みの体格だったら危なかった。
エミリアはロダンが操縦すると思ったのだが、シャレスがロダンを制して操縦席に立った。
「私も元は軍人だった。船はお手の物だ」
この蒸気船は、この前ロダンと一緒に乗った船に近しい印象を受ける。
つまり最新鋭ということだ。
蒸気機関が駆動し、煙を吐き出す。
(換気はどうなっているのかしら……?)
エミリアが天井を見上げると、鉄板に隙間が見える。
逃げ道はあるということか。
煙を吐き出しながら船が地下の川を進んでいく。
フォードとルルはうきうきと船に乗って楽しんでいた。
「きらきらだねー」
「きゅーいー」
数分進んだところで、シャレスが口を開く。
「ところでロダンから聞いたのだが、君は生体ルーンを使えるそうだね」
「……はい」
めったに使うことはないが、隠しているということでもない。
そうであったら観客のいる決闘では使わないし。
「見せてもらうことは可能かな」
「大丈夫です」
エミリアは左腕をかざし、二の腕に力を入れた。
この動作はもう、身体に染み付いている。
膨大な魔力が圧縮され、腕を伝う。
ほとんどの人間にはわからないであろう、超高度のルーン魔術がエミリアの体内でうごめき――発現する。
エミリアのすぐそばに闇で塗り潰された漆黒の鏡が浮かび上がった。
「えっ、なにこれ!?」
フォードが目をぱちくりさせる。
実は彼の前で漆黒の鏡を使ったことはなかった。
エミリアの黒髪にも似た、闇の鏡面にフォードとルル、ロダンの顔が映り込む。
久し振りにエミリアの漆黒の鏡を見て、ロダンがわずかに目を細めた。
「お母さんの必殺技みたいなものよ」
「へぇー! すっごい……」
「きゅい……!」
ルルが漆黒の鏡を見て、頭頂部のふわふわ羽毛をちょちょいと直した。
鏡は長時間、維持できるものではない。すぐに鏡は消した。
鏡が消えてロダンの肩の力が緩む。
何度も決闘で痛い目を見た魔術なので、どうしても彼は無意識に警戒してしまうのだ。
にしても、この鏡の前で髪(羽毛だけど)を直されたのはエミリアも初めてだった……。
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