185. 3泊4日の2日目
3泊4日の旅、その2日目。
ロダンを見送ったエミリアはベッドにぽてっと倒れ込んだ。
「……なにやってるんだ、私」
「おはよう、お母さん……起きたんじゃないの?」
目を擦るフォードにエミリアはもぞもぞと顔を向ける。
「起きたんだけど、いまさらになってちょっと失敗したなって……」
「きゅい」
お酒は飲んでも飲まれるな。
いにしえの時代から、そう言われています。
ルルの言葉には反論のしようもない。やっぱりどうもおかしかったのだ。
それからエミリアはシャワーを浴びて気分を一新させ――ついでに今朝のアレコレを記憶から洗い流して、待ち合わせの時間に備えた。
ルルの目もぱっちぱちである。
(……ちょっと太ましくなったような気がするけど)
エミリアとフォードの体型は変わっていないが、ルルは……かなり貯め込んでいる気がする。要注意だ。
用意を済ませ、エミリアたちはエントランスに時間通り集合する。
当然ながら、すでにロダンは待っていてコーヒーを余裕で飲んでいた。
「改めて、おはよう」
「おはよう、ロダンお兄ちゃん!」
「きゅい!」
うむとロダンが頷いて、コーヒーを一口飲む。
なんとなくだが、彼の飲み方的にかなり美味しいコーヒーなのではないかとエミリアは感じた。
「おはよう……ここのコーヒーはどう?」
「文句なく美味いな。水が違う」
さっき水を飲んだ時にも思ったのだが、やはり合っていたようだ。
「……運んで成立するなら、そうしたいくらいだがな」
「水を? 難しいんじゃないかしら」
「まぁ、そうだろうな。残念だ。せめてここで心置きなく飲んでおくしかない」
残ったコーヒーは少なかったらしく、ぐいっと飲み切ったロダンが立ち上がる。
「……さきほど使いが来て、シャレス殿も来られるそうだ。ただ、そう長時間は無理だということだが」
「それでも来てくれたのね。ありがたいわ」
周囲にはエミリアたち以外いない。
「で、例の物があるのはどこなの?」
「……地下だ。この塔のな」
時間通りにエミリアたちはエレベーターに乗り込み、地下1階に向かう。
地下1階に辿り着いてエレベーターの扉が開くと……湿った空気と魔力の気配を感じた。
しかも外から光を取り入れる塔の上層に比べ、そもそもが暗い。
「上とはまるで違うわね」
エミリアのふっと漏らした感想に、闇の中から答えがあった。
「この塔元来の雰囲気はこちらのほうが近い――外の人向けに改装されていないからな」
姿を現したのはシャレスであった。
エミリアとロダンが貴族式の礼をとった。
「再びお会いできて光栄です」
ちょっと遅れてフォードとルルも礼をした。
ルルは羽をピコピコと掲げただけだったが……。
「こちらが私の子、フォードです。精霊はルルと申します」
「話は聞いている……」
シャレスがじっとフォードを見た。
この場に息子を連れてきても良い、というのはシャレスからの提案である。
そのほうがありがたいのは確かだが、理由がよくわからなかった。
「……なぜ同席を許すか、不思議に思うかね?」
「率直に申し上げれば」
「モーガンの遺産は結局のところ、どれほど残っているかわからぬ。さらに残されたものが、どれほど危険なのかもわからぬ」
シャレスがエミリアとロダンに目線を移す。
「私では遺産を探すことはできても破壊できない。信頼できる――遺産に心を奪われない後継者が必要なのだ」
「それがフォードですか?」
シャレスの考えには賛同しても、それがフォードなのはあまりにも気が早すぎはしないだろうか。
それにフォードに可能かどうかは……。
「もしくは彼の子か、孫かもしれぬ。モーガンの遺産がどれほど長く存在できるか、君も知っているはずだ」
「……そうですね、はい」
ごくりとエミリアは息を呑んだ。
嵐の杖も想像を絶するほど長い時間を生き抜いてきたのだった。
役割を担うのはフォードではないのかもしれない――100年先の人間かもしれない。
だからこそ信頼できるかもしれない者を同席させるのだ。
シャレスの覚悟を改めて聞いたエミリアは、地下の奥へと誘われる。
そこにまさに眠っているはずなのだ。モーガンの次なる遺産が。
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