180.肉奉行
用意された食材は3段になって陳列されていた。
焼肉の食べ放題店に近いとエミリア
は思った。
メインは肉類で、様々な説明書きがされてる。
アンドリア牛のリブロース、肩ロース、モモ肉……驚いたのは味付けされたホルモン類もあったことだ。
(タンやハツ、レバー……!)
ウォリスでもイセルナーレでも、こうしたホルモン類はなかなか売っていない。
やはりステーキ重視だからだ。
しかし前世の記憶があるエミリアはステーキだけにはこだわらない。
むしろ久し振りにこうしたホルモン類も食したい気分であった。
「いっぱいあるねー」
野菜類や水産物も当然ながら抜かりなく皿に並んでいる。
野菜はカボチャ、イモ、レンズ豆、ニンジン、それに多少のキノコ。
水産物はビンナガ、シイラ、貝類やカニ類……。ホタテが魅力的に映る。
フォードがよく見えるよう、ルルを前に抱える。
ルルの瞳はきらきら、ぱっちり状態だった。
「ルルは何から食べたい?」
「きゅい!」
ルルがビッフェの並ぶ皿一帯をぐるっと羽で囲んで示す。
「……全部ってこと、ルル?」
「きゅいっ……!」
「うーん、まずは最初に食べるものから……」
さすがのフォードも全部という提案を受け入れはしなかった。
「取ってあげるわ、どれから食べる?」
「きゅっ!」
ルルがビッフェの皿の外側にいる、コックを羽で差した。
にこにこしているコックの前には、きらびやかな大きな肉塊があった……。
そのコックのそばには、『5つ星アンドリア牛のヒレ肉。数量限定』とある。
「よく見てるね〜、ルル」
「きゅい!」
本当にルルは見逃さない。
ということで、ヒレ肉をゲットしつつ何皿も取って席に戻った。
ドリンクは席から頼む方式だ。
高くないものは飲み放題で、お値段の張るものは後で精算らしい。
網焼きの横のテーブルに皿を並べて、ロダンが言ってくる。
「少し飲んだらどうだ?」
「そうね、ちょっと飲もうかしら……」
ここにはホテルの従業員が沢山いるし、宿泊の部屋まで5分で帰れる。
美味しいバーベキューを満喫するには、アルコールも重要なテイストだ。
「あなたも飲むんでしょ?」
「……いや、俺は……」
ロダンが口ごもるが、エミリアはメニュー表を手に取りながらじっと見つめる。
一方が飲んで、もう一方が飲まないとか。
飲めない人間に強要するつもりはないが、ロダンは物凄く飲めるほうなのを知っている。
「わかった、まぁ……飲むとしよう」
「そうこなくちゃ」
上等の赤ワインとベリージュース(フォードとルル用)を頼み、肉を網に乗せ始める。
きちんとした炭火の上に、分厚いステーキ肉がゴロゴロ……。
モモ肉や肩ロースが熱を受け、香ばしい煙が立ち昇る。
「きゅー」
ルルはテーブルの上に陣取り、肉を見つめていた。
「きゅい!」
しかるべきタイミングで塩と胡椒。
そこから両方の羽にトングを構えて。
完璧な肉奉行スタイルである。
ルルの瞳は最適の焼き加減を見極め、耳は弾ける肉汁の音を聞き逃さない。
「野菜もちょっと焼こうかしら」
エミリアが野菜の皿を手に取ろうとすると、ルルがそれを制する。
「きゅっ!」
「……まずはお肉を焼いてから、だって」
フォードの翻訳を聞きながら、ルルは譲らない姿勢だった。
ピットマスター・ルルは網の上を支配して、最高のバーベキューを実現するつもりであった。
そのためには完全なプランを策定し、実行する必要がある。
その圧力にエミリアはごくりと喉を鳴らした。
ルルは真剣である。
「わ、わかったわ……」
仕方ないのでエミリアはワインに口をつける。
芳醇な香り……甘くて、飲みやすい。
肉に合わせて飲めばもっと最高だろう。
エミリアが引き下がるとルルは頷き、肉をひっくり返す。
中心部に赤身を残しつつ、網色をつける。
均一でない肉厚にも網の位置で対応するのが肉奉行の力量の見せ所だ。
ロダンが腕を組んで唸る。
「ふむ、文句のつけようのない焼き加減だな……」
ピットマスター=バーベキューを調理する人=肉奉行
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