177.塔の図書館
ロダンから話を聞いたエミリアはそのまま嘆息した。
何をどう考えても間抜けな話である。
「……にしても、完全なニアミスなんてね」
「そういうことだな。お互いに不運ではあった」
ロダンが一緒にいたからこそ、ソルミは当て身をシーズに食らわせたのだろう。
もしエミリアとフォードだけなら、シーズは散々エミリアにつっかかってきたか……あるいはあの場でエミリアがキレるのが先だったかもしれない。
「シーズが目を覚まし次第、ソルミは予定通り彼女を連れて帰国するそうだ。もしシーズが何かしようとしても――」
ロダンが目線をちらとドアの外に向けた。
「ホテルや警察にも伝えて、早急に帰国させるよう手配してある」
「手際のいいことね、助かるわ」
「これについては、俺の力ではない。シャレス外務大臣の威光は絶大ということだ」
今回のアンドリア行きを手配したのはシャレスだ。
イセルナーレを取り仕切る大物政治家の力はやはり、大きい。
「……はぁ、この件は私のアレでもあるし、彼には仕事で応えないとね」
「そうすれば彼も喜ぶだろう」
話をしている限り、シャレスはエミリアを重んじてくれている。
ウォリスとの関係を考える上でも、シャレスの価値は極めて大きい……。
打算的にはなりたくなかったが、エミリアにはフォードがいる。
子どものために何がベストなのか。ある程度は計算高く生きるべきなのだ。
そんな話をしていると、昼もかなり過ぎてきた。
列車での食事はかなり豪華で、朝食兼昼食のような形だったので空腹ではない。
もう少し時間を潰してから夕食にしたいところだった。
ちょうど、それにぴったりの施設は塔の真下にある。
「ねぇ、フォード。本を見にいく?」
「えっ……いいのー!?」
フォードがルルを抱えて走ってくる。
やはり塔の1階にある本棚に興味津々だったらしい。
「それなら俺も行こう。あるかどうかわからないが、読みたい本がある……」
「ロダンお兄ちゃんが読みたい本ってなにー?」
フォードがワクワクしながらロダンに聞く。
エミリアはロダンの読む本の傾向を知っている。
それは今も変わっていないのだろうか。
「アルバート博士の『新時代のマネジメント新論』という本が読みたい」
「……きゅい?」
「お母さん、それってどういう本なの?」
賢いとはいえ4歳に説明するにはハードルの高い本だった。
ロダンは大体、こんな感じで読むのは実用書優先である。
「文字ばっかりで難しい本よ」
「へぇー……マネジメントってなに?」
「良い王様になるにはどうしたらいいか、そんなことが書いてある……はずだ」
「そうなんだ、面白そう!」
エミリアは内心で変わらないなぁ、と思った。
ロダンはなぜか堅苦しい本を面白そうに言う才能があるのだ。
そのせいで、エミリアはどれほど本を読んでコレジャナイと思ったことか……。
「ルルも読むでしょ?」
「きゅい」
多分、イケます。
きっとイケそうな本の気がします。
ルルはロダンの読みたい本の難易度をなんだか理解してそうな雰囲気だった。
まぁ、フォード向けの本もたくさんあるだろう……。
再びエレベーターに乗り、1階へ。
ここは大学図書館のフロアになっている。
広大なフロアには本棚が並び、フォードは一層目を輝かせた。
上層階の大学生やホテルの宿泊客、特別会員に貸し出しをしているのだとか。
(構造は前世の図書館とまぁ、似ているようだけど――)
違いがあるとすれば、さほど静かではないということである。
この図書館は館内での読書を想定していない。
その辺りは前世で知る図書館とは明確に違う点であった。
「ロダンお兄ちゃんの本を探さなくちゃね」
フォードはまずロダンの読みたい本を優先するつもりらしい。
「……ふむ、多分こちらの新刊コーナーだな」
「探そう探そう〜」
「きゅーい」
フォードとルルの目線の高さから本を探すのは困難だと思われるが……しかし人のためにやる気になっているのはいいことだ。
ルルもふにふに、ぽいんぽいんしながら首をきょろきょろ動かしている。
とても可愛い……。
と、しばらくしてルルが本棚の一角をずびしっと羽で指し示した。
「きゅ……!」
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