171.三角柱のホテル
三角柱の塔。アンドリアの中央に座す、世界有数の高層建築。
アンドリアという学術都市の象徴。アンドリア中央大学の校舎。
そこまではエミリアも知っていた。
だが、その中にホテルがあるとは全然知らなかった。
なぜか?
ガイドブックに載っていなかったからである。
なぜ載っていなかったのか。
それはこのホテルが会員制の超高級ホテルであり、一見の観光客は宿泊できないからだ。
宿泊できないホテルをガイドに記載する人間がいるだろうか?
無論、いない。
もちろん来る前にロダンの示したホテルの住所は、アンドリア中央大学そのものであった。
しかし馴染みのない番地を見ただけでは、ホテルと三角柱の建物が結びつかなかったのだ。
(くっ……! ちょっと悔しい)
三角柱の建物の内部は一転して、図書館のような雰囲気である。
落ち着いた木目、調度品も茶色が基調だ。
正面玄関は吹き抜けになっており、開放感がある。
その壁の一部は鏡のように磨き上げられ、銀の光沢が入り込んでいた。太陽光も取り入れられているのはルーンのおかげか。
エントランスから奥を見渡すと、本棚がたくさん並んでいた。
学術機関らしい。
これに真っ先に反応したのがフォードだった。
「うわぁ、あれって本棚だよね!?」
「そうね……ここはたくさんの本があるみたい」
「いいなー!!」
フォードが身体をうずうずさせる。
「荷物を置いたら見にきましょうね」
「うんっ、楽しみ!」
ということで、ホテルのある階層へ。
15階からがホテルらしいが……なんとこの建物にはエレベーターがあった。
「数年前に増設されてな。この高さのものは世界でもそうはないだろう。王都でも見かけん」
とはいえ、エミリアの前世からすると相当にレトロなエレベーターだが。
エレベーターボーイが差配して金属製の柵ががらがらと開いたり、閉まったり。
それでもカウンターウェイト式のエレベーターは問題なく、人を階段という重荷から解き放ってくれる。
(素晴らしい文明の利器……)
6人乗りのエレベーターはガタゴトと音を立てながらエントランスへ降下する。
エレベーターは全部で6台になり、確かに金をかけて整備したのが伺えた。
フォードとルルはそもそもエレベーターを知らないので、何も気にしていないようだ。
ロダンがちらりとエミリアを見た。
「安全なモノだから、心配はいらない」
「あら、大丈夫よ。ちょっと上下に動く程度でしょ?」
前世を思い出す前のエミリアならもうちょっと不安になったかもしれない。
しかし、今のエミリアにはそんな不安はない。
ということでエレベーターに乗り込む。
中に全員が入ると、エレベーターボーイが丁寧に尋ねてくる。
「どちらまで参りましょう?」
「15階まで」
ホテルのエントランスがあるのが15階。
なので、まずはそこまでだ。
エレベーターは扉と逆側がガラス張りになっていた。
枠とガラスには強化のルーンが施されており、見た目よりも遥かに頑丈である。
「おおー、見える―」
「きゅいー」
フォードとルルがガラスにべちゃりと張り付く。
特にルルはガラスにまた、ぐにぐにと顔を押し付けていた。
自分が収納されているバッグから背を伸ばして……。
「……好きなのか、それ?」
「かもね……」
エレベーターは軽快に15階まで昇っていく。
気圧の変化にエミリアはちょっとだけ顔をしかめるが、これは予想内。
階段の苦労と引き換えの小さな代償だ。
「昇っていったー……」
「きゅー……」
15階に到着し、エレベーターのドアが開く。
さて、フォードの手を引こうと思ったエミリアだが――。
「えっ……?」
エレベータホールに陣取るふたりにエミリアは絶句する。
まだ昼時、しかも会員制のホテルには人は少ない。
その中でもはっきりと忘れることができないふたりがいたのだ。
まさか、思ってもみなかった――元義両親のシーズとソルミがエレベーターホールにいた。
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!







