170.塔の都市
『アンドリア中央駅、アンドリア中央駅に到着いたしました。。出口は右側です。ご注意ください――』
アナウンスを聞きながら、エミリアたちは列車を出てホームへと降り立つ。
時間帯のせいだろうか。
乗り込んだ王都の駅よりも人混みを感じ、エミリアはしっかりとフォードの手を握る。
「きゅーい」
そのフォードの背中のバッグにはルル。
人混みの中だとぬいぐるみにしか見えないのが幸いだ。
「わぁー……天井が高いね」
「きゅー」
アンドリア中央駅のホームは鉄柱が組み合わさった吹き抜けであった。
吹き抜けにはステンドガラスが所々に配置され、太陽光をプリズムに分解する。
エミリアも楽しみながらオレンジや青の光のショーに彩られた駅を歩く。
「アンドリア中央駅は元々、放棄された聖堂の資材を転用しているらしい。あのステンドグラスもそうかもな」
ロダンは……ルルの羽をちょんと摘まんでいた。
ルルの迷子防止策らしい。バッグに入ってはいるが、心配なのだろう。
行き交う人には王都と似ていながらも、異なる雰囲気がある。
日焼けしている人が少なく、装いは落ち着いていた。
ウォリスに比べれば、当然服装はカラフルでラフなのだが。
「こっちだ」
アンドリアに来たことのあるロダンの案内で駅内を進む。
土産物屋やレストラン、ちょっとした屋台がちらほらある。
アンドリアステーキ、アイス、サーモンの串焼き、チーズ……。
ルルの目が食べ物に移り変わっては――また次の食べ物に吸い寄せられる。
明らかに、食べたがっている。
「……だめよ」
「きゅい……」
まだまだ入るのですが。たくさん入ります……と言っている。
入るとかそういう問題ではなく、食べすぎなのである。却下だ。
その辺りは甘くないエミリアである。
「きゅ……」
ルルがロダンを見上げる。
きらきらの瞳で。
その瞳の魅力はロダンを捉えた。
「ルルが何か言っているぞ」
「だめよ。太るから」
「うん、大きくなり過ぎちゃうから」
フォードもこの辺りはエミリアと完全に同意見である。
無制限にご飯をあげるのは優しさではない。
「そうか……」
「きゅい……」
同調してる。可愛い。
ルルに対しては甘々なロダンらしい。
しかし許さない。間食は大敵だ。
ということでアンドリア中央駅から出る。
アンドリアは川と平原に囲まれた都市であり、どこを向いても山が見えない。
実際、ここから北にある山脈はもうウォリスとの国境になる。
アンドリアに存在するのは王都に匹敵する街並み、そして数々の学術機関だ。
色鮮やかな屋根の家が立ち並び、学者の塔が点在する。
それゆえアンドリアの住人は自分たちの街を『塔の都市』とも呼んでいる。
都市の中央に位置する三角柱の塔。
確かに、そのように胸を張りたくなる気持ちもわかる。
「本当に高い建物だね~」
「きゅうー」
フォードとルルがぐいーんと三角柱を見上げる。
これほど高層建築はイセルナーレにも、他にない。
元々はアンドリアを治める貴族の居城だったのが、大学に転用されたのだとか。
城にしては妙な形としか言いようがないが、これはその貴族の趣味だと言う。
しかし多数の高度なルーンで組み上げられた三角柱の塔は、建造から百年が過ぎてもなお都市のランドマークとして存在する。
「さて、じゃあホテルに荷物を置きに行くか」
「そのほうがいいわね」
そこでエミリアはルルの頭をぽむぽむと撫でる。
「ホテルに着いたらお昼だから、何か食べましょう」
「きゅい!? きゅい!」
間食は駄目だけれど、普通の食事まで制限するつもりはない。
なんだかんだ言って、エミリアもルルに甘かった。
中央駅から乗り合い馬車を使い、ホテルまで。
ホテル選びから何までロダン任せ……ちょっと気が咎める。
(でもこれは仕事だし――)
ロダンは迷うことなく進む。
気が付くと三角柱の塔へかなり接近していた。
「おおー……」
「きゅー……」
フォードとルルが唸る。
近くで見るとさらに見応えがあった。
「随分と塔に近い、いいホテルなのね」
何気なくエミリアが言うと、ロダンが表情を変えずに塔を見た。
ちょっと楽しそうに微笑んでいる。
「エミリア……ホテルがあるのは、あの塔の中だぞ」
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