164.ふたり、ベッドで
手前のベッドにはロダンが寝て、埋まっている。
奥のほうにはフォードがうつ伏せになりながら寝転がっていた。
(まぁ、意識するのも変な話よね? ロダンを乗り越えて奥のベッドに行って、ルルからもみもみしてもらうだけなんだし。ルルの善意なんだから無下にもできないわ。お腹いっぱい食べてちょっと眠いし、フォードとルルのそばならきっと最高の寝心地なのは間違いない。仮に寝てしまっても寝過ごす危険はないわけで)
エミリアの思考が刹那の軌跡を描く。
「わかったわ、ちょっと通るわね」
「……ああ」
口元にルルの羽があるので、ロダンの声がくぐもって聞こえる。
表情もわかりづらい――ルルのお腹で隠されているから。
エミリアはよっせとベッドに手をつく。
なんてことはない。
腕力も体力も常人を越え気味なエミリアにとっては。
すらっと背の高いロダンを見下ろし、ロダンとルルを乗り越える。
列車の揺れをわずかに映した銀の髪、ラフな私服。
エミリアは懐かしい想いに囚われた。
(……何年振りかしら?)
留学時代、ロダンに乗馬を教え込んだのはエミリアだ。
元々、彼も初めてではなかったが――お世辞にも中級者レベルではなかった。
乗馬については容赦なくエミリアはロダンを鍛えた。
さすがのロダンも疲労困憊するほどに。
そんな時、ロダンは学院近くの丘でよく倒れていた。
エミリアはそんな彼のそばに腰を下ろした。
あの時から何もかも変わった気がするが、上から覗く銀髪と彼の体格は変わっていない。
(まさか、列車に乗ってイセルナーレを旅するなんてね)
よっ……とエミリアは奥のベッド、フォードの元に転がり込む。
ロダンへの意識をしまい込みながら。
「……マッサージしてくれるのよね?」
「きゅ……!!」
燃える瞳のルルの後ろにエミリアが寝転がる。
腕をちょっと曲げれば、ロダンの身体に触れる。
なにせ、エミリアとロダンの間にいるのはルルだけなのだから。
ほんの20センチほどの距離だ。
「きゅいきゅい」
ルルが身体を横向きにして、正面をエミリアの顔に向ける。
これでそれぞれの羽がロダンとエミリアの顔を揉めるようになった。
もみもみ。
ふもふも、もみもみ。
温かいルルの羽がふたりの首元から徐々に癒す。
うっとりしながら目を閉じると眠ってしまいそうな――だけど、隣にロダンがいると思うと眠気が一定の線を越えていかない。
ここで眠れたらと思う気持ちと、高鳴る心臓の鼓動。
ふと、ベッドの奥を見るとフォードがうつ伏せに寝ていた。
「ん~……」
どうやら彼のほうが眠気に抗えなかったらしい。
もぞもぞと動きながら、フォードはエミリアの手を取って幸せそうだ。
そしてルルのマッサージは続く……のだが。
動きの変化にロダンが少し唸る。
「……うん?」
ルルの羽がロダンの髪をさわさわして、動きが止まりつつあった。
艶やかなロダンの髪は上質の絹のようで、ルルさえも気持ち良くなってしまう。
窓の外には美しく、しかし単調な景色が続く。
ちょうど田園風景がずっと続く区間に入っていた。
そして喋る人もいない。
フォードは寝て、ロダンとエミリアもマッサージされている。
足元はふかふかのベッド。
身を投げ出せば楽園が待っている。
「きゅい……」
うつらうつら。
羽を動かすのが本当に遅くなり、身体が前後に揺れる。
明らかに眠そうだった。
「ふきゅ〜」
ルルがあくびする。
「寝ていいんだぞ」
ロダンが優しい声とともに外側にある左腕を回し、ルルの背中をぽんぽんとする。
「……きゅ」
ルルはぽふっとベッドにうつ伏せになった。
柔らかなベッドの感触と眠気に全てを委ねる。
少しすると、すーすーとした寝息が聞こえてきた。
どうやら本当に眠気の限界だったようだ。
そしてルルを挟んで、大人ふたりが残された。
「…………」
「…………」
静かな個室とかすかな列車の揺れ。
なぜだかエミリアの神経は研ぎ澄まされ、眠気はどこかに行っていた。
そして思うことはただひとつ。
(……どうしよう!)
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