160.中央駅
3泊4日の旅なので、そこそこの荷物である。
この世界にはもう旅行用鞄という概念があるが、まだキャリーケースはない……。なので、鞄もそこそこの荷物だった。
エミリアの指輪を褒めたロダンは、エミリアから手を離して――そのまま彼女の足元にある旅行鞄を持つ。
ごく自然な仕草で。
「いいの?」
「大した重さじゃない」
当然、ロダン自身の荷物もあるわけだが……鍛えているロダンは両方の荷物を軽々と運ぶ。
ロダンの瞳が『フォードとルルから目を離さないようにな』と語る。
少し心が痛むのだが、エミリアにはフォードとルルを見るという仕事があるのも確かだった。
なので、素直に従うことにする。
イセルナーレ中央駅は王宮からほど近い、丘の上にある駅だ。
ここからイセルナーレを始めとして大陸各地に鉄道が走っている。
「人が多いねぇー……」
「きゅー」
エミリアはフォードと手を繋ぎながら駅を歩く。
人が少なめとはいえ、やはり心配だ。
「3番線だ」
列車の手配もロダン側で行っているので、それについていく。
エミリアたちにとってはイセルナーレに来た日以来の駅である。
それも数か月前の話なので、駅の構造は全然わかってない。
駅の壁は御影石などを使い、品良くまとめられている。
あとは絵画や彫刻なども抜かりない――さすがにレプリカだが。
土産物屋やレストランも併設されている。
「あれ? あそこ、工事してたかしら」
区画に丸ごと幕がかかり、工事中になっている。
ウォリスからイセルナーレへ来た日にはこうなっていなかったような。
「改築工事だ。利用客が増えているのでな」
ロダンが天井を見回す。
去年、取り付けられたようなきらびやかな魔力灯が輝いている。
「ほぼ毎年、どこかしらを工事している。需要に供給が追いつかん」
「景気が良くていいことじゃない?」
「まぁな、政府は鉄道をさらに伸ばすつもりだ。俺が死ぬ頃には、大陸のどの国へも鉄道で行けるようになるかもな」
その推測は多分、正しい。
なにせこの世界から百数十年後くらいが現代の日本になる。
その時になっても鉄道は新設され、使われているのだから。
ロダンと駅構内を進むと、周囲の視線が若干気になる。
(ロダン、注目されているなぁ……)
流れるような銀髪、異性を惹きつけてやまない海色の瞳――ラフな格好だからこそ醸し出される色気。
剥き出しの魔性ともいえる魅力が非常に目立ってしまう。
いつもは騎士服が人避けになるのだが、今日はそれもない。
留学時代と同じだった。
(……良かった、私は魅了されないで)
なぜだか初対面の時から、エミリアはロダンの魅力を受け付けない。
これは多分、ロダンの魅力が魔力を含めてのもので、エミリアはそれに対抗できるからだろうと認識していた。
そんな感じで駅のホームまで行くと、すでに乗り込む特急列車が到着している。
着飾った赤と黒の高級感ある外装だ。
列車は今来たばかりのようで、続々と荷物を持った乗客が入っていく。
「先頭車両だ」
ロダンに先導され先頭車両に向かって、エミリアは思わずのけぞった。
(レストラン付きの車両じゃない!?)
どこかの新聞記事でエミリアも見たことがある。
今年、運行開始されたばかりの超高級車両、スィートクラブ(甘美なる赤蟹)であった。
車両に赤と黒に紛れて、雄々しい蟹のデザインが埋め込まれている。
確か寝台付きで、5つ星ホテルにも劣らない。
1泊してしまうと何十万もかかるとか。
だけど、アンドリアへの旅はそんな大層なものではない――だって。
(……2時間もかからないのに!?)
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