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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
3-2 新たなる仕事

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156/308

156.義両親

義実家をどうするのか?

という答えにこの章では回答いたします。

ご期待ください。

 同じ頃、ウォリスのとある華やかな夜会で。


 その夜会ではダンスに興じる者はいない。 

 繊細な音楽と料理、ゆったりとした会話を楽しむ夜会である。


 というのも、この夜会の正式参加者は子育ての終わった女性のみ。

 男性も参加できるが、ここでは添え物に過ぎない。


 ウォリスでは長子が爵位を継ぐものと認識されている。

 この夜会の参加者はそうした高位貴族の女性が集まる場なのだ。


 そうした淑女の場に、ひとり注目を集める女性がいた。

 豊かな青髪と細く鋭い目。彼女は44歳であったが、夜会でも屈指の美貌と称えられていた。


 その女性こそエミリアの元夫、ベル・オルドンの母親――先代オルドン公爵のシーズであった。


 これまでは夜会の中心人物のひとりであったシーズだが、今は彼女にあえて近付こうとする者はいなかった。


(なんで、どうして、私がこんな――っ!!)


 必死に笑顔を浮かべながら、シーズは奥歯を噛みしめる。

 周囲の雑音が嫌でもシーズの耳に入り、怒りをかき立てていた.


「あら、シーズ様は今月も出席されたのね……」

「懐事情が厳しいって話は嘘だったのかしら?」

「ふふふ……それがね、馴染みの商人から聞いたのですけれど――」


 ベルの話はウォリスにも伝わっていた。


 とはいえ、ウォリス王家は表向きの話しかしていない。

 イセルナーレに屈服したという事実を認めたくなかったからだ。


 問題は財産分与であった。


 イセルナーレからせしめた金で送っていた豪華な生活。

 それが突然失われ、しかもエミリアに金を渡さなければならないという。


 イセルナーレから明示された金額はオルドン公爵家を破滅の淵に追いやるのに十分だった。

 この夜会も本来なら出席を見送るべきであったが、シーズは参加を強行した。


(ここで引いたら、私たちが窮乏してると認めるようなものじゃない! そんなの……絶対に嫌よ!)


 屋敷の中はずいぶんと寂しくなった。

 換金できるモノを売り払い、使用人を解雇してなんとか凌いでる状態なのだ。


「あら、それなら私も聞きましたわよ――」

「うふふ、シーズ様も本当に大変ねぇ」


 シーズの奥歯がぎりりと鳴る。


 かつてはシーズにもしっかりとした友人がいた。

 利害関係を越えた、貴族の友人が。

 

 だが、そういった友人は今やひとりもいない。

 5年ほど前にイセルナーレから祝儀をせしめて以来、シーズは変わった。


 派手好みになり、かつての友人と縁遠くなったのだ。

 否、友人を切ったのはシーズからだった。


『あんな貧乏人たちと一緒にいるのは嫌! 私には金があるの。金があるのだから、もっといい世界に私はいるべきなのよ――』


 所詮、金を積んで得た友好関係は金とともに失う。

 シーズはそれを肌身で感じながらも認められなかった。


 悔しい、悔しい、悔しい……!

 その悔しさを味わっていることも悔しい。


 落ちぶれつつあるということは、落ちぶれたことよりも屈辱だ。

 ひとりぼっちで夜会を退席したシーズは控室で荒れに荒れた。


「なんなのよ! あいつら! 揃いも揃って、私を見下して……!!」

「シーズ、落ち着いておくれ」


 シーズをなだめるのはシーズの夫、ベルの父ソルミである。

 42歳にしてはソルミは整った肌と体型を維持していて、顔立ちもかつての美男子の栄光が残っていた……カツラの下の髪の薄さを除けば。


 シーズはソルミの2歳年上、しかもソルミは侯爵家の出身で婿であった。

 そのためにソルミはシーズに頭が上がらない。


 不満を爆発させるシーズをなだめるのは、ソルミにとってはいつものことであった。

 できる限り優しく、入学前の子どもに言い聞かせるようにソルミが語る。


「財産分与を終わらせられれば、きっと静かになる。人の噂も長くは続かないものだ」

「……ねぇ、あなたはそれでいいの!? ベルがイセルナーレから戻ってこないのよ!」

 

 その件についてはもう彼の中で結論は出ていた。

 何度も繰り返された話題にソルミは素っ気なく返す。


「死んだわけじゃないんだ。ほとぼりが冷めれば、帰ってこられるよ」

「はぁ!? それって、いつよ! いつベルは帰ってこられるのよ!」


 そんなことはソルミにもわからない。


 イセルナーレの一存次第に決まっている。

 その一存を損なわないためにも、財産分与を滞りなく終わらせることが重要なのだ。


 しかしそんな明白なことがシーズには理解できないようだった。

 ソルミは笑顔を取り繕いながら、内心では疲れ切っていた。


(……ベル、僕たちの息子か)


 だが、ベルを育て上げたのはシーズだ。

 オルドン公爵家の跡取りとして生まれたベルに、婿であるソルミはなにひとつ関与できなかった。


 ソルミにはアレが自分の子どもだという実感さえも薄い。

 いつの間にか生まれ、大きくなり、やらかして消えた。


「とにかく、イセルナーレとの揉め事をこれ以上大きくさせないことが重要だよ。その後は慎ましく暮らして様子を見よう……」


 それはソルミの心からの本音だった。


 侯爵家の三男だったソルミには大した野望も能力もない。

 ただ、平均より顔が良かっただけだ。


 嵐のように生きるのがシーズなら、流されて生きるのがソルミ。

 これがエミリアの義両親の姿であった。

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― 新着の感想 ―
元義父は状況把握も対応力もしっかりしているなあ 目指せヤシの木 しなっても折れないように
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