155.セリスいわく
翌日。
ルルはほふく前進で運動をしていた。
「きゅいきゅい、きゅい」
ルルの背中には皮袋が乗っている。
その中には日用雑貨が入っており――負荷が増しているのだ。
これも脂肪を燃焼させるための工夫のひとつである。
「いいよー、その調子! そのまま、そのままー」
「きゅいっっ」
フォードはコーチ役としてルルの隣で歩いていた。
で、今日はセリスがエミリアの自宅に来ている。
ちなみに皮袋を担いだら――と提案したのはセリスである。
やはり彼女はできる子である。
そしてエミリアとセリスもうつ伏せになりながら、ルルの運動を見守っていた。
可愛い……と思いながら。
「――で、決闘はそんな感じで終わってね」
「初日からハードでしたね……」
エミリアはセリスに先日の大学のことを話していた。
彼女はなんだかガネットに同情しているようだったが。
「エミリアさんと決闘だなんて、考えたくもありません」
「ええ……? これでも私、全盛期はもう過ぎてるわよ?」
フォードを産んでからエミリアは決闘から遠ざかっていた。
イセルナーレに来て以降、多少の運動とかなりの魔力トレーニングをしているとはいえ、負荷自体は貴族学院の頃とは比べられない。
(……今ならロダンのほうが強いかな)
ロダンは王立守護騎士団の団長として研鑽を積んでいる。
今のエミリアよりもきっと強いだろう。
そう考えるとちょっと悔しい。
エミリアはロダンとは互角でいたいのだ。
で、セリスについてもエミリアは高く評価していた。
「今の私よりセリスさんのほうが強いんじゃ……」
「そ、そんなことありません!」
「うーん……でも学年首席だったのよね?」
一緒に仕事をする中でセリスのおおよその魔力や技術は知っている。
彼女の才能、努力の質は折り紙付きだ。
さらに貴族学院を卒業して間もなく、ブランクもない。
セリスの今の強さはガネットやキャレシーを圧倒しているはず。
エミリアの感覚では、それほどの差があるのだ。
「いえいえ、私なんて……エミリアさんと戦いたくありません!」
ぶんぶんと顔を振るセリス。
謙遜でなく、本当に嫌みたいだった。
「残念ね……」
「はぁ、はぁ……危ないっ……!」
実のところ、セリスは貴族学院時代にエミリアのことを聞いていた。
それは教員からではあるのだが……。
セリスは知っている。
エミリアがどれほど苛烈であったかを。
今の貴族学院の決闘にはエミリア在籍時よりもルールが追加されている。
『学生同士の決闘では第三者が審判として加わる』『倒れた相手への追撃をしない』――これらのルールが追加されるようになったのは、エミリアのせいなのだ。
「きゅいっ!」
ふたりの目の前に腹這いのルルが通りがかる。
羽を掲げ、決意に瞳が燃えていた。
「いえーい」
「頑張ってください……!」
ふたりはルルの羽にタッチする。
ふにふに……そしてルルはそのまま腹這いで進んでいく。
(うーん、真面目に勘を取り戻しておこうかしら……?)
大学講師であるなら決闘に負けるわけにはいかない。
やはり念には念を、全盛期に近いコンディションには近づけておきたい気持ちが強くなる。
イセルナーレに来て数か月、生活に余裕ができたのもあるかもしれない。
過去の自分の良かったところを取り戻す余地ができたのだ。
(……ルルと一緒に運動の秋もいいかもね)
こうしてエミリアはルルの運動を見守りながら秋の日々を過ごしていった。
大学の講義は週1、2回ほど。あとはギルドの工房でルーン消去のお手伝いをしたりとか。
ガネットとキャレシーは今のところ、真面目に講義を受けている。
挑発行為もなくなった。
そして9月が終わり、秋も暮れていく。
その中でついにロダンとの打ち合わせが決まる。
議題は財産分与とアンドリア地方への出張――シャレスの件が動き出したのだ。
セリス(エミリアさんの強さがわからず、決闘を申し込むなんて……血気盛んなのは恐ろしいことです……!)
セリスはかなり正確にエミリアやロダンの力量が分かるレベルにはいます。
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!







