154.越えて
「ふぇくしょんっ!!」
突然、鼻がむずむずしたエミリアは特大のくしゃみをかました。
その様子を見たフォードがティッシュを取ってくれる。
「お母さん、大丈夫?」
「は、はふ……ありがとう……」
フォードからチリ紙を受け取ったエミリアは鼻を拭いた。
淑女にあるまじき姿であったが、自宅なので良しとしよう。
にしても、なぜこんなくしゃみを……?
まさか誰かが自分の噂をしたとか。いや、そんな非科学的なことが起こるわけがなかった。
魔術がある世界だが、エミリアは非科学的なことは認めない。
そういう性分であった。
エミリアは買ってきた積み木をすすっとアーチ状に組み上げる。
その積み木の向こうにはルルがいた。
「きゅい!」
「もう大丈夫よ、ルル」
「きゅーい!」
ぽにぽにぽにぽに。
ルルはぽよぽよしながら積み木へと走っていく。
そして積み木のアーチの手前で腹這いになり――そのままアーチを潜り抜けようとした。
「……きゅ!」
お腹の力だけでアーチを潜ろうとするが、ルルはそのまま動かない。
否、動けない――。
エミリアがフォードと顔を見合わせる。
「ハマっちゃった……?」
「うーん、そうみたい……。ルル、頑張って!」
「きゅい!!」
ぷにっ。
ルルが腹這いのまま、お腹に力を入れる。
だが、本来サイズ的に通れるはずの積み木のアーチにルルは接触してしまった。
肩に力が入り過ぎ、お腹が跳ねてしまったのだ。
その帰結は崩壊だった。
「きゅいー!」
ルルはアーチに挟まったまま、崩壊に巻き込まれる。
もっとも積み木なので、ダメージはないのだが。
「あー……」
フォードがアーチの崩壊を目にして、積み木をどける。
救出されていくルル。
エミリアは腕を組んで考えていた。
「やっぱり……」
先日、ルルと精霊魔術と繋がってみて。
ちょっとルルの身体が重いように感じたのだ。
サイズ的にルルの横幅と縦幅に変化はない。
記録を取っているので、それは間違いなかった。
では、どこがマズいのか?
「――BMIが悪化してる」
つまり、これまでルルに詰まっていたのは夢と希望と筋肉だったのだ。
ぽよぽよに見えて、しっかりとしていた。
それが数か月の生活を経て筋肉が脂肪に転換されていたのだ。
無論、全部ではない。しかし確実に変換されている。
ぽよぽよがぽよぽよぽよになっていた。
この世界にはまだ体重計がない。
天秤などの重量計はあるが、家庭用の体重計がないのだ。
なので、ルルの体重変化を把握できない。
……重量計を買うべきだろうか。悩ましい。
ちょうどルルの体重を測れるようなものがあるのだろうか?
「ふぅ……まぁ、とりあえず」
「きゅい」
「運動をもっとしないとね」
「きゅいきゅい」
積み木をどけてもらったルルが立ち上がり、頷く。
やはり思うところはあったらしい。
しゅしゅしゅ。
羽でシャドーボクシングをするルル。
とりあえずは運動だ。
筋肉は問題を解決しない。
筋肉がないことが問題を引き起こす。
ということで、その日の午後はルルの運動を眺める日になった。
積み木で作った柵をもにもにと乗り越えたり、またアーチを作ったり。
そこでエミリアはひとつ、閃いた。
「じーっ……」
積み木の正面にうつ伏せになるエミリア。
可愛いルルが正面から来て、柵を乗り越える。
「きゅい!」
「いぇい!」
エミリアの伸ばした手にルルがハイタッチして、折り返していく。
そして反対側にはフォードが同じようにいた。
こうすればルルの可愛い姿を眺めながら、運動に協力できるのだ。
うーん、幸せ……。
きゅっきゅい! (´꒳`*っ )3
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!







