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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
3-2 新たなる仕事

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153/308

153.同情

 貴族学院時代のエミリアはどんな印象の女性であったか。


 大半の人間は『おっとり』『穏やか』というだろう。

 実際、エミリアはそのような女性であった。


 古い家柄の公爵家でありながら、貴族学院の誰にでも優しかった。

 厳しい目の注がれる非貴族系の学生にも分け隔てなかった。

 教師たちの評判もすこぶる良かったのだという。


 一方、少数の人間はエミリアを――どこか欠落した女性だと考えた。

 良くも悪くも年頃の少女が持つべき人間味が感じられないのだ。

 特に、魔術が関わるとそのような印象は強くなった。


『セリド公爵家は、器だから』


 随分と仲良くなってから、ロダンはそのような言葉をエミリアから聞いた。

 他の誰もいない時に、夕陽の差す丘で。


『器に感情はいらないって、お母様もお父様もお兄様も言っていたわ。私たちの使命は受け継いで、次に渡すことだけだから』

『……つまらないね。自分のやりたいことってないの?』


 ウォリスに留学していたロダンは、すでにカーリック家の嫡男であることが確定していた。母が死のうとも、道は敷かれたのだ。


 エミリアもこの頃にはロダンの状況をある程度、承知していた。

 だからその言葉はエミリアに批判的なように見えて、ロダン自身のことでもあるとわかっていた。


『今は、ない』

『本当に何も?』

『私の運命はもう決まっているもの』


 エミリアが綿毛になったタンポポをちぎり、息を吹きかける。

 白い綿毛が夕陽を浴びながら、散った。





 エミリアとはそのような女性だったのだ。

 もちろん、再会してからのエミリアは大きく変わっていた。


 とはいえ、エミリアの欠点は決闘に本気すぎるところだ。

 それ以外はまぁ……しかし、血気盛んな学生の相手は不向きと思わざるを得なかった。


「初日は中々の講師振りだったと思いますがね」

「そうですか……。座学の講義なら彼女は極めて優秀でしょうが」


 学年首席として、不出来な学生の面倒も彼女はよく見ていた。

 座学なら心配はない。


 念のため、紺色のハンカチで口元を拭うロダン。

 

「決闘沙汰に彼女を巻き込まないことをお勧めしますよ」

「……ふむ、それがもう決闘沙汰にはなっていまして」

「ええっ!? 相手は……学生ですか?」

「入学したての……」


 それを聞いて、なぜだかロダンはそわそわし始めた。

 

「守護騎士団で懇意にしている病院がある。紹介状を書きましょう。診てもらったほうがいい」

「ははは、魔力が底をついただけですよ」


 トリスターノの言葉にロダンは眉を寄せる。


 魔力切れは言うほど、当人にとって楽な症状ではない。

 半日はまともに動けないはずだ。


 その後も数日間は倦怠感、吐き気、筋肉痛が襲ってきても不思議はない。

 実際、騎士団の通常訓練でも魔力切れにまでは追い込まないのだ。


「入学したての学生には、過酷なような……」

「まぁ、昨今は学内でも決闘が減りました。私の学生の頃はしょっちゅうありましたがね」

「……先生の頃は激しかったそうですね」


 50代のトリスターノと21歳のロダン。

 その差は思った以上に大きい。


「その挑んだ学生を見ると、懐かしい気分にもなるのです。最初のうちに手痛く学んだほうが、良いこともある」

「先生がそう仰るのなら」

「ウォリスの魔術師らしく、精霊魔術も達者でしたしね」

「……精霊魔術?」


 ロダンがまた眉をひそめる。


 今の話の流れで精霊魔術を使うような局面があるだろうか。

 第一学年の学生に精霊魔術を教えるようなことはないはずだが。


「ああ、セリド嬢が決闘の最初だけ精霊魔術を使ったのですよ。あなたも知っているかも知れませんが、小さな精霊ペンギンのね」

「……なんということを」


 ロダンがため息をつく。

 

 精霊魔術を使われたら、ロダンもエミリアとは勝負にならない。

 それほど精霊の有無は決闘に大きいのだ。


 さすがにあまりにも容赦のない仕打ちだった。

 一片の勝利の可能性さえも摘み取っている。


 今後、決闘を挑まれないようにするためだろうが……。

 ロダンは過去のエミリアとの決闘を思い出し、首を振る。


「その学生には心の底から同情しますね」

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― 新着の感想 ―
るるちゃんが本気を出せばイセルナーレが廃墟になるので迂闊に本気は出せないのだ。 謙虚なるるちゃんは格が違った。 今晩は一杯運動したから特大マグロステーキだ! るる「九枚でいい。」
ルルさんがレバーブローを出してたら立ち上がれなかった 本気の一欠片も見せてないんだけどなあ 特別手当てがあってよかった
ロダン… 留学時代どんだけこっぴどくやられたんだ…w でもこれ、仮に前世の記憶無し+学生同士の決闘でガネット君と対峙した場合、彼はただ機械的に無慈悲に叩き潰されたって事ですよな。 良かったね〜、国も…
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