148.決闘の初撃
乾いた土の決闘場にエミリアが悠然と立ち入る。
その隣には――やる気に満ちたルルがいた。
「きゅい……!!」
しゅしゅしゅっ。
羽でシャドーボクシングをするルル。
あの日のケーキ、昨日の炭水化物、今日のチーズ。
あとなんだか色々なカロリー……ルルはちょっと運動する気になっていた。
見学する学生たちが決闘場をぐるりと取り囲んでいる。
ざっと数百人はいそうだ。
(……思ったより見学者が多いような)
せいぜい数十人と思っていたけれど――なぜか多い。
しかも明らかに若くない、教員っぽい人も後ろにいるような気がした。
「準備は良いようだな」
ガネットが目を怒らせ、決闘場に足を踏み入れる。
黒のスーツ仕立ての装具を身につけて。
(確かに、かなり着慣れているようね)
決闘に不慣れな場合、そもそも全身のルーンに気を取られるものだ。
彼には全く、そんな気配がない。自分のモノにしている。
ガネットが大股に距離を詰めてくる。
「ルールは?」
「どちらかが降参するまででいいんじゃないかしら」
見学者がどよめく。
決闘にも様々なオプションがある。
一番安全とされているのは拳闘スタイルだ。
これはその名の通り、足技や組技なしのボクシングに近いルールである。
対してギブアップのみの決闘ルールは古式ゆかしい、もっとも危険なスタイルだった。それを躊躇なくエミリアが提案したのだ。
ぎょっとする見学者が多いのも無理はない。
(……貴族学院での決闘はコレだけだったし、他のスタイルはあんまり知らないのよね)
「いいぜ。怪我してもあとでわめくなよ」
「――ええ。ところで、この子を参加させてもいい?」
エミリアがルルを抱き上げる。
ルルは抱き上げられながら、しゅしゅしゅっと羽を動かした。
精霊魔術をほとんど知らないガネットが眉をひそめる。
魔力のある精霊なら彼も難色を示しただろう。
だが、目の前の精霊は魔力はほぼゼロ。無害そのもののように感じられた。
「なんだそりゃ……精霊か? 好きにしろよ」
「ありがとう。じゃあ、始めましょうか」
「なんでもアリだからな。こっちも使えるものは使わせてもらうぜ」
きゅむ。
エミリアがルルをそっと地面に置く。
そしてふたりが前に進む。
決闘は20歩ほどの距離から始めるのが習わしである。
その距離まで近づき、手を合わせて礼をする。
これも決闘の作法だが、ガネットもきちんと守った。
同時に礼をしながら、エミリアは最大限に集中力を高める。
この時間さえも無駄にしない――決闘の鉄則だ。
だが、ガネットはまだ臨戦態勢ではない。
この時間を浪費している。
お互いに顔を上げた瞬間から、戦いが始まる。
エミリアとガネットは顔を上げて、お互いを見つめ合った。
彼がまとうルーンに魔力が満ちていく。
(言うだけはあるな)
その速度は申し分ない。
大学に入りたての学生の域を遥かに凌駕する。
でも遅い。
エミリアが手をかざす。
「あん?」
エミリアの精霊魔術に導かれ、ルルがしゅっと高速で移動した。
ガネットがあっと思った時には、ルルがすでに足元にいた。
「きゅいーーー!!」
ぱっこーん!
ルルのアッパーでガネットの身体が宙を舞う。
見学の者たちが唖然とする。
ガネットも防御は間に合ったが、踏ん張れなかったのだ。
そのまま空中で一回転し、ガネットがべしゃりと地面に衝突する。
「ぐはっ、ぐぅぅっ……!」
なんとか意識を切らないで済んだガネットが歯を剥き、エミリアを見上げる。
その視線を遮るようにルルがガネットの顔の前に立った。
「……きゅい!」
このままルルで連打すれば終わりだろう。
そう思うエミリアだが……彼の性格的にそれでは納得しないと直感していた。
勝つのが目的なのではない。
折るのが目的なのだ。
一撃はいいとして、そこから先は自分でやるべきだ。
そう判断したエミリアはルルに呼びかける。
「もう大丈夫よ。ごめんなさいだけど、見学しててもらえる?」
「きゅっ!」
頷いたルルがてっててーと決闘場の隅、芝生の柔らかそうな一角に走っていた。
そしてそこでルルはごろんと横になる。
対してガネットはその間に、なんとか立ち上がっていた。
やはりルルの一撃ではノックアウトしなかったようだ。
「てめぇ……精霊魔術師だったのか」
「さっきまではね」
エミリアが腰を少し低くして、構えた。
「ここから先はあなたの戦い方に合わせるわ」
きゅい…… (´꒳`*っ )3
(ルルは脂肪が燃えた気になっている!)
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