136.誕プレ
「きゅっきゅい、きゅーい♪」
モンブランケーキが切り分けられる。
それぞれの皿の前にケーキが並べられ……。
るんるん気分のルルであった。
「では、早速いただきまーす」
手を合わせて感謝を捧げ、ケーキを食べ始める。
まずはフォークでさらにケーキをさくっとすくう。
スポンジ部分はぎゅっと密度が濃い。
マロンペーストが垂れ下がるも、切れない。
顔にモンブランを近づけると、芳醇な栗の香りが漂う。
フォードが目をぱちくりとさせた。
「これって栗なの?」
「ええ――フォード君、もしかして初めてでした?」
「うん、こんな麺みたいなケーキ……初めて食べる!」
彼の瞳は好奇心がみなぎっていた。
思えばモンブランはウォリスのケーキには珍しい。
この世界でこういう、装飾されたケーキはラ・セラリウム共和国が本場だ。
イセルナーレは国際貿易を重んじるので、入っては来るけれど。
ウォリスではまだまだ他国発のケーキは普及していない。
「きゅいきゅーい」
ルルも器用にフォークを構え、さくっとモンブランをすくっていた。
……結構大きめな一口の気がするけれど。
エミリアが気を取り直し、モンブランを口に含む。
強烈な甘み、それにほのかな渋みが口に広がる。
甘みはマロンとカボチャペーストだ。
そこにビターなチョコレートペーストが絡んでいる。
スポンジ自体も濃厚で、マロンに負けていない。
それぞれが主張しながらも、ぎりぎりのところで調和している。
これこそまさに一流のケーキだった。
「はう……」
思わずエミリアの口からため息が漏れる。
甘みはどうして人を魅了するのか。
「うわぁ、美味しいね~」
「きゅい! きゅきゅきゅい!」
たぷたぷたぷ。
口いっぱいにモンブランを頬張ったルルが身体を上下させて頷く。
隣にいるセリスもエミリアと同じ、ほっこり顔をしていた。
「はぁー……これは想像以上ですね」
「ええ、本当に」
エミリアが用意していたレモネードに手を伸ばす。
からっとしたレモネードがこってりした甘みをほどよく遠ざけ、リフレッシュさせてくれる。
「うーん、いいわね」
このレモネードもセリスのチョイスだ。
柑橘と生姜の風味がちょっと強めなのがレモネードによく合う。
「きゅい!」
ルルがすすっとマロングラッセをフォークに刺す。
次なる獲物を狙っている目だ。
そこで突然、呼び鈴が鳴った。
「んんっ!?」
エミリアはレモネードをごくんと飲み込み、玄関に向かう。
昼の時間に来客とは珍しい。
「はいはーい……」
言って、エミリアが玄関を開ける。
そこにはロダンが立っていた。
「はえっ!?」
「なんだ、その声は……寝起きか?」
「い、いえ……そうじゃないんだけど」
見るとロダンは桃色と銀の模様が入った紙袋を持っていた。
「……えっと」
「今日が誕生日だろう。祝いの品だ」
ロダンは普段とまったく変わらず言って、袋をエミリアへ押しつける。
「えっと、ありがとう……」
「中身は高級缶詰だ」
「……缶詰」
「ルルとフォード君にはそのほうがいいだろう。イセルナーレの美味だ」
エミリアは言外にルルを大きくさせたくない、というロダンの意志を感じた。
実際、スイーツはもう食べている。
となると低カロリーで美味しく、保存のきく物のほうが良い。
とことん合理主義だった。
「あとは入浴剤も入れてある。気分転換にはなるだろう」
「わかった」
ロダンは形の残るものをプレゼントしてくれたことがない。
まぁ、それはいいのだけれど。
「じゃあ、俺はこれで」
「うん――忙しいところ、本当にありがとう」
「ああ、誕生日おめでとう」
ロダンはそのまま玄関から上がらず、エミリアの家から去っていった。
寂しい気持ちもあったが、仕方ない。
彼は彼らしく祝ってくれたのだ。
紙袋はずっしりと重い。
ケーキに合いそうな缶詰はあるのだろうか……?
そう考えながら、エミリアはリビングへ戻った。
きゅきゅきゅい! (*´꒳`* っ )つ三
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