133.牢中問答
同じ頃、イセルナーレの軍拘留所にて。
鉄とルーンで守られた牢獄に手錠をされたレッサムは捕らえられていた。
「…………」
うなだれたままのレッサムは黙秘を貫き、牢にいる。
かつんかつんと鉄の廊下を歩く音がする。
「伯父殿、話をする気になったか」
来訪したのはロダンであった。
ロダンは牢番に外すよう身振りで示す――敬礼した牢番が去った。
レッサムが唇の端を曲げて笑う。
「王都守護騎士団団長の権威を思う存分、振るっているようだな」
「振るいたくはないのだがな」
レッサムについて、イセルナーレ上層部は隠蔽するつもりであった。
これはシャレスからの提案でもある。
墓堀人は闇から闇へ。
15年経過しても全てを明らかにするのは危険であった。
ロダンが牢の近くにあるテーブルへ書類の束を置く。
「伯父殿の罪は非公開の軍事法廷で裁かれることになった。黙秘を貫けば不利に働くぞ」
「何も言うつもりはない。裁くなら裁け」
このような反応はすでにシャレスからロダンも聞いていた。
だが、簡単に口を封じるわけにはいかない。
レッサムは墓堀人であった――それが重要なのだ。
「無論、見返りは用意するとイセルナーレ上層部は言っている」
「ほう……」
「提供する情報によっては穏やかな余生を送ることも可能だ。このままだと伯父殿は生涯、監獄に入ることになるだろう」
「なんだ、その程度か」
レッサムが頬のこけた顔を上げる。
「勝手にしろ」
「……そんなに大事か、かつての仲間が。――他の墓堀人が」
ロダンの挑発的な言葉にレッサムの瞳が燃える。
「イセルナーレの軍に残った伯父殿を見捨てた連中だぞ。今更、守る必要があるのか」
「お前にはわかるまい」
15年前、カローナ連合への行動が露見した墓堀人はシャレス派によって壊滅した。
そもそも裏の組織ではあるが、もう墓堀人という組織は存在しない。
だが、危機を察した元墓堀人の少なくない人間が逃亡している。
そして組織の拠点や活動記録もいまだ不明な点が多い。
シャレスが欲したのは墓堀人の情報だった。
「墓堀人の仲間を売るのが嫌と言うなら、かつての活動記録だけでもいいと上層部は言っている。このような申し出は非常な幸運だと思うがな」
「シャレスの提案だろう、それは……ということは俺の仲間はまだ捕まり切っていないのだな」
「…………」
ロダンの沈黙を肯定と受け取ったレッサムが笑みを浮かべる。
「ロダン、お前も損な役回りだな。お前だけなら、このような情報を言うことはなかっただろう。シャレスは焦っているのか、不安なのか。イセルナーレの外務大臣の椅子に座っていても墓堀人の影が恐ろしいのか」
「シャレス殿は秩序を重んじている」
「マルテを死に追いやったのは、その秩序だぞ」
レッサムの憎悪がロダンの背、遥か遠くのイセルナーレに向けられる。
「結局、秩序は支配構造のすり替えにすぎない。マルテはその犠牲になったんだ……!」
「……だから探していたのか? 秩序を破壊する手段を――」
「破壊ではない。回復だ。あるべき姿に戻す」
ロダンが息を吐いて、テーブルの上の書類を見やる。
「海軍からの減刑嘆願書だ。ずいぶんと人望があるようだな」
「……そうか」
レッサムが顔を伏せる。
やはり海軍はレッサムのよりどころではあったようだ。
だが、今はこれ以上の言葉を引き出すのは不可能だろう。
シャレスも長期戦の構えだ。焦りはあるが、結果がすぐ出ないのはわかっている。
レッサムが小さな声で囁く。
それは冷たい牢の中でよく反響した。
「ひとつだけお前に教えておこう」
「…………」
「マルテは成功した」
「どういう意味だ……?」
「マルテは失敗して、あまつさえ裏切ったのかと思った。だが、それは俺の浅慮だった――今はもう妹の成果を疑ってはいない」
ロダンがわずかに眉を寄せる。
「母は正義を為したぞ」
「その通りだ。マルテは成し遂げた。俺ももう確信した。だから満足だ。これ以上、話すことはない」
沈黙が牢を包む。
格子を隔てて、レッサムはロダンを見上げた。
「探すがいい。俺の代わりに。ロダン、お前は名もなき漁村から出てきた墓堀人の子だ。断じて、忌むべきカーリックの子なんかじゃない……!」
これにて第2部第4章終了です!
お読みいただき、ありがとうございました!!
明日から第3部となります。
第3部はちょっと息抜きにルルとお仕事の話が中心になると思います。
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