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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-4 嵐は過ぎ去り

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133/308

133.牢中問答

 同じ頃、イセルナーレの軍拘留所にて。

 鉄とルーンで守られた牢獄に手錠をされたレッサムは捕らえられていた。


「…………」


 うなだれたままのレッサムは黙秘を貫き、牢にいる。

 かつんかつんと鉄の廊下を歩く音がする。


「伯父殿、話をする気になったか」


 来訪したのはロダンであった。 

 ロダンは牢番に外すよう身振りで示す――敬礼した牢番が去った。


 レッサムが唇の端を曲げて笑う。


「王都守護騎士団団長の権威を思う存分、振るっているようだな」

「振るいたくはないのだがな」


 レッサムについて、イセルナーレ上層部は隠蔽するつもりであった。

 これはシャレスからの提案でもある。


 墓堀人は闇から闇へ。

 15年経過しても全てを明らかにするのは危険であった。


 ロダンが牢の近くにあるテーブルへ書類の束を置く。


「伯父殿の罪は非公開の軍事法廷で裁かれることになった。黙秘を貫けば不利に働くぞ」

「何も言うつもりはない。裁くなら裁け」


 このような反応はすでにシャレスからロダンも聞いていた。


 だが、簡単に口を封じるわけにはいかない。

 レッサムは墓堀人であった――それが重要なのだ。


「無論、見返りは用意するとイセルナーレ上層部は言っている」

「ほう……」

「提供する情報によっては穏やかな余生を送ることも可能だ。このままだと伯父殿は生涯、監獄に入ることになるだろう」

「なんだ、その程度か」


 レッサムが頬のこけた顔を上げる。


「勝手にしろ」

「……そんなに大事か、かつての仲間が。――他の墓堀人が」


 ロダンの挑発的な言葉にレッサムの瞳が燃える。


「イセルナーレの軍に残った伯父殿を見捨てた連中だぞ。今更、守る必要があるのか」

「お前にはわかるまい」


 15年前、カローナ連合への行動が露見した墓堀人はシャレス派によって壊滅した。

 そもそも裏の組織ではあるが、もう墓堀人という組織は存在しない。


 だが、危機を察した元墓堀人の少なくない人間が逃亡している。

 そして組織の拠点や活動記録もいまだ不明な点が多い。


 シャレスが欲したのは墓堀人の情報だった。


「墓堀人の仲間を売るのが嫌と言うなら、かつての活動記録だけでもいいと上層部は言っている。このような申し出は非常な幸運だと思うがな」

「シャレスの提案だろう、それは……ということは俺の仲間はまだ捕まり切っていないのだな」

「…………」


 ロダンの沈黙を肯定と受け取ったレッサムが笑みを浮かべる。


「ロダン、お前も損な役回りだな。お前だけなら、このような情報を言うことはなかっただろう。シャレスは焦っているのか、不安なのか。イセルナーレの外務大臣の椅子に座っていても墓堀人の影が恐ろしいのか」

「シャレス殿は秩序を重んじている」

「マルテを死に追いやったのは、その秩序だぞ」


 レッサムの憎悪がロダンの背、遥か遠くのイセルナーレに向けられる。


「結局、秩序は支配構造のすり替えにすぎない。マルテはその犠牲になったんだ……!」

「……だから探していたのか? 秩序を破壊する手段を――」

「破壊ではない。回復だ。あるべき姿に戻す」


 ロダンが息を吐いて、テーブルの上の書類を見やる。


「海軍からの減刑嘆願書だ。ずいぶんと人望があるようだな」

「……そうか」


 レッサムが顔を伏せる。

 やはり海軍はレッサムのよりどころではあったようだ。


 だが、今はこれ以上の言葉を引き出すのは不可能だろう。

 シャレスも長期戦の構えだ。焦りはあるが、結果がすぐ出ないのはわかっている。


 レッサムが小さな声で囁く。

 それは冷たい牢の中でよく反響した。


「ひとつだけお前に教えておこう」

「…………」

「マルテは成功した」

「どういう意味だ……?」

「マルテは失敗して、あまつさえ裏切ったのかと思った。だが、それは俺の浅慮だった――今はもう妹の成果を疑ってはいない」


 ロダンがわずかに眉を寄せる。


「母は正義を為したぞ」

「その通りだ。マルテは成し遂げた。俺ももう確信した。だから満足だ。これ以上、話すことはない」


 沈黙が牢を包む。

 格子を隔てて、レッサムはロダンを見上げた。


「探すがいい。俺の代わりに。ロダン、お前は名もなき漁村から出てきた墓堀人の子だ。断じて、忌むべきカーリックの子なんかじゃない……!」

これにて第2部第4章終了です!

お読みいただき、ありがとうございました!!


明日から第3部となります。

第3部はちょっと息抜きにルルとお仕事の話が中心になると思います。


もしここまでで「面白かった!」と思ってくれた方は、どうかポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて頂けないでしょうか……!


皆様の応援は今後の更新の励みになります!!!


何卒、よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
正義は人の数だけ、更には組織の数だけあるのです ルルさんに海藻サラダダイエットの危機の予感
第2部の読み応えありました。 第3部の物語も楽しくまってます。
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