130.次なる遺産とアンドリア
エミリアはシャレスに目を見開いた。
彼も彼女の姿、声を知ったのか。
ロダンが何か、思い出したように呟く。
「元々、シャレス殿の家は骨董収集が趣味でしたね」
「何代か前には家を潰しかけるほどにはな。イセルナーレでも私の家の趣味はそこそこ有名ではあるが……」
骨董品か――エミリアは得心した。
モーガンの作品は間違いなく、現代だと骨董品だ。
「今となっては、どちらが先だったのかはわからん」
「先、ですか?」
「骨董収集をしていて、たまたまモーガンの遺産を手に入れてしまったのか。それとも元々、モーガンの遺産を欲して骨董収集を始めたのか……。前者だと思いたいがな」
シャレスの言葉にはモーガンへの嫌悪感がにじんでいた。
「……彼女の声を聞いたと仰いましたね」
「うむ……若い女性の声だ。ひび割れて、憎悪にまみれ――恐ろしい」
シャレスが首を振る。
世界有数の大国イセルナーレ、その外務大臣が彼女の影に怯えているようであった。
「声だけでしょうか?」
「何……?」
シャレスがエミリアを見つめた。
どうやらロダンはそこまで詳しくシャレスに説明していないようだった。
ただ、それも仕方ない。
ロダンは彼女に会っていないのだから。むしろ予断を避けるために割愛したのだろう。
「エミリア嬢、悪いが私にももう一度説明してくれ。彼女に関わる部分だけでいい」
「はい――」
エミリアは彼女と会った部分、マルテの記憶も含めて説明した。
話していくうちにシャレスの顔色が曇っていくのが不安であったが。
「……ふむ」
話が終わって、シャレスが視線を横に滑らせる。
離婚調停の時でもあったが、これが多分シャレスが考え込む際の癖だろう。
「背中の中頃までの黒髪で、顔は見ていない。だが、背格好からして成人女性なのでは……と」
「恐らくは、そうです。マルテさんの記憶でもそこはわかりませんでした」
シャレスがエミリアの髪に注目した。
それにエミリアはどきりとする。
「君によく似ている」
「ぐ、偶然では?」
それはあえてエミリアがこれまで口にしなかったことだ。
数千年前の人間と髪色、性別が同じだからどうだと言うのだろう。
そんなことを言ったら日本人女性は卑弥呼に似ていることになる。
「……声がよく似ている」
「えっ?」
「言っただろう。私はモーガンの遺産に触れたと……。自分の声は自分ではわからぬものだ。前回、あの宮廷の時は君も緊張していた」
シャレスが語る内容にエミリアは背筋が寒くなった。
確かに、前にシャレスと会った時は自然体からは程遠い。
今のほうがずっと素に近い……。
不安に駆られるエミリアを察して、ロダンが助け舟を出す。
「そのようなこともあるでしょう、シャレス殿。今の問題はそこではないのでは?」
「うむ……まぁ、そこはよしとしよう」
シャレスも話題を切り替える。
彼が話し始めたのは、彼の手元にあるモーガンの遺産だった。
「君に来てもらったのは他でもない。私の保管するモーガンの遺産を破壊してもらいたいからだ」
「それは問題ありませんが……。ただ、実際に壊せるかは品物を見ないと」
その程度ならまずは大丈夫だろう。
やはりあれらは見過ごせない。
それにモーガンの遺産の壊し方はマルテが教えてくれた。
嵐の杖と同等でも自分であれば充分対処できるとエミリアは思う。
ロダンもわかっているようで、反対する雰囲気ではなさそうだった。
当のシャレスはエミリアの言葉を待っていたようで、非常に嬉しそうだった。
「おお、そうか! 頼める人間がおらず、本当に困っていたんだ」
「で、肝心の品物は……?」
シャレスは軽装で何かを持ってきている風ではない。
こほんとシャレスが咳払いする。
「品物自体は王都にはない。別の場所に保管している。……近くに置いておきたくなかったのでな」
「それが賢明かもしれませんね」
エミリアはふむふむと頷く。
どのみち人口密集地帯で解体作業するのはリスキーだ。
海上か陸の離れたところでやりたくはある。
「それで、なのだが……好都合な面もある。保管しているのは国境近くのアンドリア地方なのだが、近いうちにそこで君の財産分与も行われる」
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