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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-4 嵐は過ぎ去り

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127.振り返り

 炭水化物をコントロールすることにより、ルルも太らない。

 エミリアも大丈夫……なはず。


 サーモンたたきのキャビア乗せも、とても美味しい。

 ほぐれたサーモンの身と濃厚な脂にキャビアがよくマッチする。


「きゅいー♪」


 ルルが頬をむにむにしている。可愛い。

 あえてエミリアの中で近い料理をあげるなら――。

 

(……サーモン&いくら丼みたいな)


 キャビアはそれだけで弾ける食感と旨味と塩味がする。

 そこにサーモンを合わせるということは、つまりサーモンいくら丼だ。


 米はないんだけど。

 あったらいいなと思いつつ、自重せねばなるまい。


 だけどやはり、キャビアは筋子よりはいくらだなと思う。

 これ自体に驚くほど味があるのだ。


 なのでキャビアを珍重する料理人の気持ちがよく分かる。

 これを調味料代わりに使いたくもなるだろう。


 セリスが本日のジュースをグラスの中で回す。


「このミックスオレンジジュースもいいですね」

「ライムやハーブが入っているみたいでね、白ワインみたいでしょ」

「なるほど、道理で。よく合います!」


 ちなみにこのオレンジジュースの謳い文句は『まるで白ワイン。お酒の飲めない時にもこのジュースで楽しもう!』だった。

 エミリアはその謳い文句を信じて買っただけだ。


 イセルナーレでは公共の場で泥酔すると容赦なく捕まる。

 なので、現代日本ほどではないがノンアルコールドリンクも存在する。


「ふー、食べたわね」

「はい……ご馳走様でした!」


 綺麗さっぱり皿の上を食べ尽くし、ゆったりとくつろぐ。

 フォードも表情をにまにまさせつつ、ルルを撫でていた。


「お腹いっぱいだねー、ルル」

「きゅーう」

 

 ルルの鳴き声がすでに眠そうな気配を発している。

 

 後片付けを終わらせると、セリスは何回も礼をして帰っていった。

 引っ越しも近いという……まぁ、真下なんだけれど。


 まだ陽は残っていたが、フォードとルルは今にも寝そうだった。

 かなりの満腹なので当然だろう。


 エミリアはまだ、眠いというほどではなかった。

 今日起きたことで神経がまだ高ぶっている。


 エミリアはソファーでフォードとルルを抱く。

 ほわほわと気持ちいい。


「眠たくなったら、お昼寝していいからね」

「……うん」

「きゅーい……」


 フォードとルルはもう生返事だ。


 ふにふにとふたりの頬を揉んでみる。

 フォードの頬はすべすべで、ルルの頬はふかふかだ。


「んーぅ……お母さん?」

「うん?」

「やっぱり今日、何かあったんだよね」


 フォードがエミリアを見上げる。

 否定はできなかった。今日は色々なことがあったのだから。


 エミリアは兄妹の絆を見た。

 レッサムは妹を真剣に心配して、執念にとりつかれた。


 結果として間違った方向に行ったが、途中まで彼は正しかった。

 レッサムの警告のうち、多くは真実だったのだろう。


 カーリック伯爵がどれだけマルテを愛そうと……そこには代償が伴った。

 もしマルテが他の人を愛していたら――そこまで考えて、エミリアの心がずきりと痛む。


(そうしたら、ロダンはいない)


 ロダンがいなければ貴族学院でのあの楽しい生活もない。

 もちろん、今のエミリアとフォードの生活も。


「……お母さん?」

「大丈夫よ」


 そしてエミリアは母子の絆を見た。

 マルテは執念の果て、ひとつの成果を得たのだ。


 それは彼女を破滅させてしまったけれど、確かにあった。


 天変地異をも招くルーン、嵐の杖。

 古代魔術の結晶――あんな代物があったということも驚きだけれど、その一端を手にしたということも……。


 あれは結局、なんだったのだろうか。

 嵐そのものだけではない。

 破壊防止、魔力吸収といった信じられない機構も備わっていた。


(あんな天災を引き起こすだなんて……あの規模は……)

 

 ルーン魔術の範疇を遥かに超えている。

 あの魔術の規模は精霊魔術だ。


 精霊魔術の規模は付随する精霊に比例する。


 例えば、イセルナーレに来た時に出会った大型のもっちり精霊ペンギン。

 あれのさらに数倍の大きさの精霊が複数いれば、あのような嵐をエミリアも起こせるだろう……。


 そんな巨大な精霊などめったにいないし、あんな規模の精霊魔術が発動された記録もない。

 神話の時代や伝説は別として……少なくとも近代的なウォリスの記録にはないはずだ。


 恐らくモーガンは実在した中では史上最高の魔術師なのだろう。


「きゅい」


 ルルがエミリアの腕に巻きつき、頬をすりすりさせる。

 柔らかい毛が心地良い。


「ルル、お母さんの肌が気持ちいいって」

「本当? 嬉しいわ」


 考えるのはよそう、今はただ感謝していたいとエミリアは思った。

 家族と一緒にいられる時間なのだから。

*以下、本編の補足です。

チョウザメは淡水魚に分類されますが、サケと同じく海でも生活することができます。

実際、キャビアの獲れるオオチョウザメはアドリア海にも生息しています。


ただし現在ではチョウザメは条約により漁獲が厳しく制限されています。

現在、流通するキャビアの90%は淡水下の養殖によるものです。

日本でも北海道沿岸にチョウザメは生息していましたが、ほぼ絶滅していると思われます。


19世紀には世界各地の海岸近くで漁獲できましたが、今は不可能です。

この世界ではまだそこまでではないため、海の食の代名詞として扱っています。


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― 新着の感想 ―
ふと、もっちりペンギンに肩たたきされたらなって考えました お腹を背もたれに
>「ルル、お母さんの肌が気持ちいいって」 ルルちゃん、ご馳走を食べさせてもらったからお世辞言っているんじゃないよね?ね?
後半にシリアスな考察がはいってるのに前半の美味しそうな食事が美味しそうという感想に脳みそが支配されてしまう 新鮮な魚介にキャビア 炭水化物が少なかろうと摂取したプリン体の量を考えると健康的ではないかも…
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