126.弾ける海の香り
フォードも本を閉じると、感嘆の声を上げてくれた。
「うわぁ、見たことのない料理ばっかりだ!」
「今日は色々と珍しい食材を買ってきたからね」
というわけで、全員で食事を始める。
今日の前菜はジャガイモ入りオニオングラタンスープだ。
手間の関係でオニオングラタンスープはこの世界だとまぁまぁ高い。
お金を出せば買えるレベルではあるけれど。
細く刻んだジャガイモ、玉ねぎの甘み、チーズの旨味……。
どれもが調和して、胃を優しく刺激する。
「うーん、お芋もいいわね……」
「色々と入ってるんだね、もぐもぐ……」
フォードには野菜も摂ってほしい、そんなわけでジャガイモ入りを選んだけれど正解だった。
ジャガイモのほくほく食感とスープがよく合う。
「ルルはどう?」
「きゅー!」
ごっくん。
ルルがオニオンスープを勢いよく飲み込んで、羽をぐっと掲げる。
「きゅっきゅいっ!」
「美味しいだってー!」
「ふふっ、良かったわ」
スープ部分は比較的カロリーが少ない。
これでまずルルのお腹を埋める作戦である。
そしてスープを楽しんだら――いよいよメインだ。
卵のムースとキャビアのセット。
フォードがまじまじと盛り付けられたキャビアを見つめる。
「……これ、卵?」
「ええ、チョウザメの卵を塩漬けしたものね」
「ふぅーん……どうやって食べるんだろう」
すすっと取り分けたセリスが説明する。
「この下の黄色い部分と一緒にぱくって感じですね!」
「きゅいきゅい……!」
ルルがふにふにと決意を秘めて頷く。
この料理なら食べるのも難しくはない。
スプーンですくってみる。
ふわっとした弾力と輝く黒の宝石。
夕陽に照らされ、どこか神秘的な雰囲気さえ漂う。
それはセリスも同じようで、口に入れる前から微笑んでいた。
「ふふふっ……」
「セリスお姉ちゃん、どうしたの……?」
「これはですね、とーっても貴重なんですよ。めったに食べられません」
「へぇ~……」
フォードはまだよくわかっていないみたいだ。
でも、4歳児ならそんなもんだろう。
食べるものの希少性とか値段とか、気にしなくていい。
まずはよく味わって、色々なモノを楽しんでくれれば親としては満足だ。
あとは偏食とか好き嫌いは少なめに……。
エミリアは少し親思考に浸った後、キャビアへと向き直る。
口を開けてスプーンをそのまま――ぱくり。
「――ッ!!」
海の香りが一気に脳天を突き抜ける。
柔らかなムースとぷちぷちキャビアの対比……シンプルであるがゆえに、間違えようもなく強烈だ。
玉ねぎとネギの刻んだ刺激、わずかな塩胡椒。
ここにキャビアがこれでもかと旨味を叩きつけてくる。
極小の海がぱぁっとエミリアの口内に広がっていく……。
野原の丘から穏やかな海を見下ろすような。
潮の匂いを野菜が包み、卵がまとめる。
一番近いのはウニといくらだろうか。
でもキャビアが内包する旨味が桁違いに大きい。
やっぱり価格でここまで違うのだ。
これならキャビアは大量に要らない。
まろやかな、海の旨味に身を委ねるだけだ。
「ほぅ……」
思わずエミリアの口からため息が漏れる。
それはセリスも同じだった。
放心状態である。
「凄いですね。ここまでパンチがあるなんて……」
「買ってきて良かったわ」
「私もこんなに美味しいのを食べれるなんて、ありがとうございます!」
フォードはどうだろうかと思ったが……。
うんうんと頷いて味わっていた。
「味がとっても濃いね、美味しい!」
「大丈夫そう?」
「うん、えーと……カニのぷちぷちに似てるかも!」
カニの内子か。確かに卵という意味では似ている。
「ルルは――」
「きゅい!」
ルルはすでにスプーンをキャビアに伸ばしていた。
最速で2口目を頂くつもりだ!
「ルルちゃん!? もう次に行くんですか……!」
「きゅいきゅい……!」
ま、まぁこれは最上の反応だと思おう。
次が食べたくなっているのだから。
他にもカニ、ホタテなど……たくさんの海の幸を皆で食べる。
一仕事終わった後の宴は最高だ。
……もちろんルルの摂取カロリーをコントロールしながら。
実はホタテのカロリーはパスタの半分以下なのである。
これで合法ペンギンのままのはずだ。
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