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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-4 嵐は過ぎ去り

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124/308

124.帰りて

 イセルナーレの港が近づいてくる。

 晩夏の太陽が優しく船を照らす。


「ふきゅ……ふっきゅ……」


 エミリアに寄りかかりながら、精霊カモメはうとうとしている。

 さすがにこの小さな身体で4個も缶詰食べたら眠くなったか。


 残されたのは杖の破片だけだった。

 それはエミリアの膝の上、ハンカチの上に鎮座している。


「……この破片はどうする?」

「まだ微弱な魔力があるな。ルーンが残っているのか」


 ロダンは極めて平静だが、エミリアはなんとなく気恥ずかしい。

 顔が見れない、そんなことはないけれど。


(はぁぁ~~……落ち着け……っ)


 エミリアは精霊カモメの丸い背中を撫でる。

 ふわっとして心地良い。ちょっとむちっとしてる。


 少し考えていたロダンが口を開く。


「破壊してくれ」

「いいの?」


 杖に残っているのは海水に晒され、燃えカスのごときルーンだ。

 それでもわずかに残ったルーンには途方もない価値がある……かもしれない。


 他国生まれのエミリアにはピンと来ていないが。

 だからこそロダンに聞いたのだが、彼の結論ははっきりしていた。


「母が望んだことだ。俺もそのほうが良いと信じる」

「そうね……」


 集中すれば数分もかからないだろう。

 エミリアはゆっくりと息を吐いて、指先に魔力を込める。


 杖の魔力は弱々しく、脈動するだけ。


 この杖を生んだのは誰か、なぜ生み出したのか。

 すべてがわかっているわけでない。


 でも、この杖はこの世界には残しておけない。

 嵐を呼ぶだなんて、規格外すぎる。


 指先で軽くリズムを刻む。

 風と波。太陽の微笑み――爪先で杖の破片を叩く。


 何度も、何度も。

 そのたびに残された魔力が泡のように弾ける。


 ……もう杖からは何も聞こえてこない。

 大丈夫、わかっていたことだ。


 あの時、マルテは確かに杖の中核を砕いた。

 彼女がしっかりと仕事を終わらせたのだ。


 エミリアがするのは、吹き消されたロウソクの後片付け――。

 そう思い、指を走らせる。

 

「ふぅ……」


 思った通り、作業自体は数分で終わった。

 紫色の破片から魔力はもう消えている。


 ロダンもそれは感じ取れたようで、深く頷く。


「終わったな……」

「ええ、本当に。この破片はどうするの?」

「もらってもいいか?」


 エミリアは杖の破片を取って、ロダンへと手渡した。


「母の墓前に捧げる。骸は墓にはないが、想いはきっと届くだろう。本当に終わったのだと」





 エミリアとロダンはイセルナーレの港に帰還した。

 ロダンにはまだ後始末があるとかで、エミリアはそこで彼と別れる。


 精霊カモメも船から飛び立っていった。

 お腹を膨らませ、とても満足した顔で。


「……凄かったな」


 マルテの想いが胸に残る。

 彼女の気持ちは痛いほどエミリアに伝わってきた。


「自分も頑張って、生きよう……!」


 帰り際、家族にたくさんいいものを食べてもらおうと思い、色々と奮発する。

 こういうことができるのも生きてるからこそだ。

 

「ただいまー」


 エミリアが自宅に帰ると、そこにはフォード、ルル、セリスがいた。

 仲良く本を読んでいる。


「おかえり、お母さん!」

「きゅーい!」

「お帰りなさいです!」

 

 買い込んだ結構な大荷物をリビングまで持っていく。

 その量にセリスが目を丸くしていた。


「す、すごい量ですね。運びましょうか?」

「ありがとう。ちょっとお願いするわね」


 フォードとルルがとことこと歩いてきて、エミリアを見上げる。


「……お母さん、お疲れ?」

「きゅい?」


 いつもフォードとルルは鋭い。

 エミリアの心の動きをわかっている。


「ちょっとね、でも大丈夫だよ」


 エミリアはふたりのそばに屈み、ぎゅーっと抱きしめる。


(……幸せ)


 フォードからはお日様の、ルルからは海の香りがした。

 ルルがふわふわの羽でエミリアの頬を撫でる。


 フォードの腕がエミリアの背に回って、抱き返してくれる。

 どちらもとても温かい。


「海の匂いがするね、ルル」

「きゅーい!」

「ちょっと遠くまで船で行ってきたからね」

「えっ、そうなんだ……! 僕、まだ船に乗ったことなーい」


 あれ、と思ったがそうか。

 ウォリスは海がないし、ここに来てからも船に乗ったりはなかった。


 でも4歳児にはまだ危ない気もする……。

 フォードがとても落ち着いている子どもとはいえ。


「今度、小さなお船を買ってこようか」

「えっ! いいの?」

「それで慣れたら、乗りましょうね」

「うんっ! そうする!」


 よしよしと思いながら。

 もう一度、フォードとルルの感触を楽しみ、エミリアはセリスの作業するキッチンへ向かう。

 冷蔵庫に買ったものをごそごそ入れる、彼女を手伝わねば。


 と、そこでセリスが目を輝かせていた。

 そこにはひとつの缶詰がある。


 どうやら今回のお買い物の目玉に、セリスは気づいたようだ。


「もしや……これは!」


 エミリアは胸を張った。


「ええ、キャビアの缶詰よ!」

ふきゅ…… ⌒(*´꒳`*)⌒ バッサバッサ


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― 新着の感想 ―
精霊の癒しパワーは共通装備なのかしら? 触感の特徴が素敵
 キャビアって美味しいの??
イルカに乗った少年(古いなあ・・・)ではなく、ペンギンに乗った少年でご近所で有名になりそう(≧▽≦)
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