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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-3 血によりて

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112/308

112.対決

 エミリアはロダンからこうなるかもしれない、とすでに聞いていた。

 あえてふたりで行動することで――容疑者を呼び出す、と。


 港まで金庫を移さなかったのは、それが理由だ。

 誘き出すため。ロダンの手で決着をつけるため。


(……この人が)


 ロダンと雰囲気と髪の色は似ている。

 だが、緑の瞳と佇まいはぞっとするほど寒気がした。


 細められた目は人を喰らう蛇のように、冷たい。

 レッサムが腕を広げながら砂の上を歩く。

 

「大胆なマネをするものだな。あえて、か。あえて俺を呼んだのだろう?」

「そうだ。市街地であなたを捕らえるのは面倒なのでな」

「……舐められたものだな。確かに、このタイミングはお互いにとって意図した通りではあるだろう」


 ごくりとエミリアが喉を鳴らす。

 レッサムの歩みは遅い。獲物をゆっくりと吟味している動きだ。


(この人は――強い)


 エミリアは相対した魔術師なら、その魔力をある程度は探り当てられる。


 レッサムの内在する魔力はロダンほどではない。だが、近しいレベルにいる。

 イセルナーレで会った人間では2番目に魔力が大きい。


 問題はそれだけではなかった。


(ロダン、大丈夫なの……?)


 レッサムの身につける輝く兜は帽子のように、軽く乗せるタイプだ。

 銀とミスリルの輝き、そしてルーンの魔力を放っている。


 腕当て、脛当て、靴、軍服で見えない部分もルーンの装具で守っている。

 どれもが最新鋭の軍用ルーン装具であった。


 対して、ロダンは貴族用の普段使いのルーン装具しか身につけていない。

 装備という面ではお話にもならない――蟻とライオンほどの差がある。


 レッサムもそれがわかっているのだろう。

 だから姿を見せてきたのだ。


 ゆっくりとレッサムがロダンに語りかける。


「黙って下がれ。そうすれば、手荒なマネをしないですむ」

「伯父殿、何か勘違いをしているようだな」

「何だと……?」


 レッサムの魔力が危険な色を帯びる。

 同時にロダンも全身から白の魔力をみなぎらせていた。


「軍用ルーンの無断持ち出し、海軍の帰投命令無視。投降するなら今のうちだ」

「――抜かせ。お前を排除して、俺が手に入れる」

「そうか。であるなら、騎士の名においてあなたを拘束する」


 レッサムが息を吐く。

 全身のルーンに魔力が行き渡り、装具が融合する。


 それは棘と金属でできた、ガーゴイルだった。

 軍服を突き破り、衝角と金属がうねる。


 これが全身鎧の進化系、ルーン魔術師の戦闘態勢であった。

 要はパワードスーツである。


 エミリアも知っていたが、見るのは初めてだった。

 対してロダンはまったくといって良いほどルーンを展開しない。


「ロダン……!!」

「心配するな。離れていろ」


 機先を制したのはロダンだった。

 海と砂を蹴り、数十メートル離れたレッサムに肉薄する。


「愚かな」


 レッサムが呟き、右腕から刃を生やす。

 銃剣の亜種であるミスリルの刃は、人体をたやすく裂く。


 一切のためらいもなく、レッサムは殺傷武器を生み出した。

 そのままレッサムはロダンを迎え撃つために刃を振るう。


「邪魔をするな!!」


 ルーンで強化された筋力が刃を加速させる。

 ミスリルの光沢がロダンに向かう――。


 ロダンの右手に白の刻印が浮かび上がる。

 ルーン魔術の高等応用。自分の身体を素体とみなし、ルーンを発現させる。


 パキッと大気が凍り、ロダンの手に氷の長剣が握られた。

 ロダンが両腕で氷の剣を構え、上段に振りかぶる。


「ぬぅっ!? 装具なしで……っ!」


 レッサムは腕をひねり、ロダンの一撃を受け止める。

 ミスリルの刃と氷の剣がぶつかり、金属音と火花が弾けた。


 魔力をまとったミスリルでもロダンの氷は砕けない。

 その硬度にレッサムが驚く。


 この戦闘技術はイセルナーレに伝わるものではない。

 理論上は可能だが、人間ができるようなルーン魔術ではなかった。

 

「器用なマネを! どこでこんな技を……」

「……ウォリスで習った。まだやるか?」

「ふん。武器は良くても膂力が足りないぞ!」

 

 レッサムが体勢を立て直し、蹴りを放つ。

 避けられる速さではない。


 蹴りはロダンの腹部に命中し、彼を弾き飛ばす。

 

 レッサムは右だけなく、左の腕からもミスリルの刃を生み出した。

 軍用ルーンのフル出力は魔力の消耗が激しいが、構ってはいられない。


 確実にロダンを打ち倒すため、レッサムが加速してロダンに向かう。


「ふきゅー!」

「……なに!?」


 突然の鳴き声と衝撃。

 意図しない左側からの衝撃で、レッサムの態勢が崩れる。


「ぐっ……!」


 何か、何かがレッサムにぶち当たってきたのだ。

 一瞬何が起こったのか把握できなかったが、レッサムはすぐに兜の奥から金庫へ視線を走らせる。


「あの女か……!!」


 戦闘用のルーンを持っていないので、油断した。

 軍人でもなく、武器もない。そんなエミリアをレッサムは警戒していなかった。


「ふきゅ……!」


 レッサムにぶつかってきた物体が方向転換して空を舞う。

 それは精霊魔術で強化された精霊カモメであった。


 エミリアが意識を繋ぎ、ここまで連れてきた小型精霊だ。

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― 新着の感想 ―
精霊カモメを何に使うのか分からなかったのですがそういうことですかー。 今回のことが終わったらお礼にイワシの缶詰をあげて欲しいと思いました。
誤字報告も入れさせていただきましたが、 鋭角:直角よりも小さい角度のこと です。 誤字報告に入れた『衝角』もちょっと違う気がしてきました…… 適切な代替表現は、単に『角』かもしれません……
精霊カモメの活躍に感涙
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