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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-3 血によりて

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106/308

106.疾走

 爆破事件の捜査担当をしているテリーは、スレイプニルで王都の大通りを駆けていた。

 

 テリーの担当は幅広い。関係者や目撃者への聞き込み、各種書類の確認、マスコミ対策……。

 しかし、それも終わりに近づいている。

 

「……何にもないのに、爆発なんてするものなのか?」


 テリーはスレイプニルに乗りながら、器用に金髪をかく。

 結局、なぜ爆発したかはわからず仕舞いだ。


 ブラックパール船舶の人間は、決して爆発物などなかったと証言する。

 木箱などはあったにしろ……だ。だが、そんな木材程度で起こる爆発ではない。


 一方、イセルナーレ魔術ギルドの証言も似たようなものだ。

 解体作業の完了した船体が爆発することなどない。

 それは作業工程表でも証明されていた。


 そして当日の状況――爆発の中心にいたイヴァン。

 倉庫と事務所には当直の職員が複数いて、侵入も難しい。


(団長には何が見えているんだろうーなぁ……)


 テリーは首を捻るが、どうも分からない。

 ロダンとの付き合いは相当に長いが、まだまだ彼は底知れなかった。


「あっ……」


 テリーが帝都を走っていると、見覚えのある人影があった。

 作業用の服を着たエミリアだ。


 テリーはとことこと歩くエミリアのすぐそばにスレイプニルを寄せる。


「どうもどうも。奇遇ですね」

「テリー副団長? これはどうも」


 直接会ったことはほとんどないはずだが、エミリアはしっかりと会釈した。

 よかった、顔と名前は知られているようで。


(……凄い綺麗な人ではあるんだけどな)


 エミリアの恐ろしく整った顔立ち、夜色の艶やかな黒髪。 

 スタイルも文句のつけようがない。


 表情自体はにこやかで、とても親しみやすい……。

 でもどこか……硬質で乾いて、冷たい。


 ウォリス人によくある、超然として近寄りがたい雰囲気を煮詰めていた。

 その辺りはロダンと非常に近いものがある。


「もしかして、これから東の港へ?」

「ええ……ブラックパール船舶のお仕事で」


 やはりそうか、とテリーは頷く。

 この今、エミリアの歩いている道は東の港へ繋がっている。


 ……このまま通り過ぎても、もちろん礼を失したことにはならないが。

 だが、団長の考えを知る上で彼女とのやり取りはプラスになるかもしれない。


 ただそれだけでテリーは人好きのする笑顔を浮かべ、エミリアに手を差し出した。

 

「俺も東の港に用があってですね、もし良ければ後ろにどうです?」

「……ええと」


 エミリアは少し迷った。

 しかし乗り合い馬車よりもスレイプニルのほうが圧倒的に早い。


 しかもテリーのことはこの前もロダンから聞いていた。

 色々あるのは人間なら当たり前で……ロダンもテリーを信頼している。

 

「では、お願いしてもいいでしょうか?」

「どうぞ。乗馬の経験は――ウォリスの方なら問題ありませんよね」


 テリーの手を取り、エミリアが頷く。

 さっとテリーの後ろに乗ったエミリアを確認すると、いくぶんかゆったりスレイプニルが駆け出した。


 さすがに速度は抑えないとな、というテリーの配慮である。

 ちらりと後ろを見るとエミリアはまったくの平静であるようだった。


「どうですか、スレイプニルは」

「……胴体が伸びきっていないように思います」

「え、ええっ!?」


 テリーはぎょっとしてしまった。


 これはもっと速度を出せ、ということだろうか。

 確かに乗り合い馬車よりも今のスレイプニルは遅い。

 あえて遅くしているのだが。


(いや、でも嘘だろ!? 素人を乗せて、これ以上は……) 


 道行く角から乗り合い馬車が出てくる。

 テリーとエミリアの見る前で曲がり、すっと前へ……。


 速度を抑えている今、追いつけるはずもない。

 どんどん距離を離されていく。


 テリーの背後からエミリアの視線が注がれる。


「…………」

「やっぱり! 私への配慮は無用ですよ!」

「いやいやいや! ちょっと!?」

「乗り合い馬車に置いていかれて、どうするんです!」


 エミリアが後ろから口を出すのみならず、スレイプニルの腹を蹴った。

 合図を受けたスレイプニルが速度を上げる。


「えええっ!? マジっすかー!!」

「私なら大丈夫です! ほら、馬車を追い抜いてください!」

「いや! 街中でそれは違法ですってー!!」


 テリーが慌てて叫ぶとエミリアがはっとする。

 声の調子からして、絶対に知らなかった感じだ。


「……ええ?」

「危ないでしょう! いくら大通りでも馬車を追い抜いちゃ!」

「イセルナーレではそんな法律なんですね……!」

「そうですよ! ウォリスとは違うんですから!」


 気を抜くと手綱さえ取られそうな気がして、テリーは戦時訓練に近いほどの力でぎゅっと手綱を握りしめる。

 エミリアはどことなく不服そうだった。


「でも追い抜かなければいいんですよね?」

「そういう問題じゃないですよ!」


 なんてこった。

 大人しそうな顔をして、とんでもねぇ感性をしてやがるっ。


 テリーは己の浅はかさを呪いつつ、東の港へエミリアを送り届けるのだった……。

ロダンのハイクラスなスレイプニル+駆け足でもエミリアは少しもビビッていなかったり(6話参照)

フォード含め、ウォリス人は乗り物に強いのです。


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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読んでます! この回を読んで、テリーさんが現代の映画に出てたら、主人公のエミリアさんにバイクを取られ(借りたとも言えるが)て犯人を追いかけるのを見てるだけの役になりそうです(笑) バイ…
エミリアが黒髪ストレートの描写は初出?見逃してただけかな。
 田舎で国道を快走する感覚かな?(笑)
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